関節リウマチが活動しているときに中断した場合
関節リウマチの治療を中断されている方がたまにリウマチ科の外来にいらっしゃいます。関節リウマチが本当によくなって、治療薬がいらない状態となり、医師から「しばらく薬は不要ですね。」と言われた方であれば別に問題はありません。しかし、ほとんどの場合はそうではなくて、何らかの理由があって治療を中断している、という方が多いと思います。
痛み止めは飲んでいる、とおっしゃる方もいらっしゃいますが、残念ながら、痛み止めは関節リウマチの治療薬ではありません。痛み止めだけ使っている方は中断しているかたと同じです。中断の理由はいろいろあります。「薬をもらったけど、副作用の注意書きを読んだら怖くて飲めなくなって、それ以来は治療をしていない。」「昔治療を受けたことがあるけど、なんとなく受診が遠のいて、痛み止めを薬局で買ったりしてしのいでいた。」「妊娠したら関節痛がよくなって、リウマチ外来に行かなくなった。出産後また痛くなったけど子育てが忙しくて外来に行けなくなった。」「海外に行くことになって、滞在先で治療が止まって、薬局で痛み止めを買って過ごしていた。」などなど、いろいろな理由で治療を中断される方がいらっしゃいます。
関節リウマチが活動している最中に治療を中断するとどんなことが起こるのでしょうか。関節リウマチは慢性に進行し、関節周囲の骨を溶かし、変形させて、関節の機能を悪化させます。かつては徐々に進行すると思われていましたが、最近の報告では最初の2,3年で病気が急速に進行して、骨破壊が進行することがわかっています。中には自然に軽快して、治ってしまう人もいます。関節リウマチと診断されたが、勝手に治ってしまう確率は報告にもよりますが2-10%程度といわれており、幸運にもそちら側に入った患者様であれば治療をしなくても問題ありません。逆に、9割以上の患者様は病気が進行していきますので、治療を中止すれば、関節破壊が進む、ということになります。特に発症してから2,3年で十分な治療を受けることが重要とされており、この期間に治療をしっかりと受けた患者の予後が良いこともわかっています。関節リウマチは早期発見、早期治療が大原則であり、特に最初の数年間はしっかりとした治療を受けていただきたいと思います。
私が出会った症例
昔私が出会った印象的な症例があります。患者様は30歳台で関節リウマチを発症しましたが、最初にもらった痛み止めである程度痛みがコントロールされたため、リウマチの治療薬は服用せずに痛み止めだけで生活していました。
初めはリウマチ科の外来にも行っていたそうですが、薬局で痛み止めを買う方が楽で、リウマチの薬は飲まず、病院からだんだんと足が遠のいてしまったそうです。膝の痛みや腫れがだんだんとひどくなり、若いのに杖を使うようになり、やがて車いすを使うようになりました。車いす生活になって障害者手帳が使った方がいいと周囲に言われて、ようやく私の外来にたどり着きました。
このときすでに発症から5年が経過していました。診察すると膝の周囲の筋肉、とくに太ももの筋肉がやせ衰えて、膝の拘縮がすすんでまっすぐに伸ばすことも難しい状態でした。両足はいわゆる「廃用」であり、まったく足が使えなくなっていたのです。私はとてもやるせない気持ちになりました。
この話が1980年代であれば、この状態はありえたかもしれませんが、これは2010年の話です。最初の担当した先生がもう少し関節リウマチの治療の必要性を説明していれば未来は変わったかもしれません。もしかすると、医師はきちんと説明していたのに、患者さんが理解されなかっただけかもしれません。この時点で、真相は全くわかりません。車いす生活になった女性が目の前にいる、という事実だけです。両ひざだけではなく、手指や手関節にも障害があり、上手にものをつかめなくなっていました。ここまで関節破壊が進行すると、ここからどんなに強力な治療をおこなっても、発症前のもとの生活にお戻しするのは難しくなります。
いろいろな事情があることは理解しますが、やはり、この車いす生活になることを事前に予想していればもう少し治療を頑張れたのではないでしょうか。関節リウマチを発症した方にはぜひ標準的治療を受けていただき、今までの生活と同じレベルに戻っていただきたいと思います。古い本には、関節リウマチは不治の病であり、難病で、特効薬はない、なんていう書かれ方をしていますし、30年前にリウマチを発症した年配の方が身近にいらっしゃれば、難治性の病気であることは容易に理解できると思います。
現在は治療薬が格段に進歩しており、いまだに完治は難しいけれども、治療を受けながら、健康な方と同じような生活が送れる確率はずっと高くなっています。30年前に発症するのと、現在発症するのでは、全く想像できる未来が異なります。昔であれば、車いすになる可能性や寝たきりになる可能性について説明をしなければならなかったかもしれません。現在は治療を受けていただくことで、通常の生活に戻れる可能性がずっと高くなっています。自己判断で治療を中断している患者様には、ぜひ、中断による弊害を理解していただき、また治療を受けていただきたいと思います。
治療の再開は早ければ早いほど良いとされます。中断をする方はたくさんいらっしゃいますので、珍しい事ではありません。中断期間が長いと、再開後の治療選択肢がどんどん少なくなってきますし、治療の有効性も低くなってしまいます。ぜひ、クリニックに足を運んでいただき、その時点で最高、最適な治療を受けていただきたいと思います。
副作用が怖くて中断している方へ
薬の治療を受けるときに必ず、副作用の説明を受けると思います。医師、薬剤師、看護師から説明されることもありますし、最近だとインターネットから情報を集める人もいらっしゃいます。薬の副作用について自ら勉強されることは大変すばらしいことだと思います。患者様のご家族が心配してインターネットで調べることも多いと思います。全ての薬には副作用があります。程度の差は当然ありますが、軽いものから重篤なものまで様々です。
一般的な傾向として、軽い副作用は頻度が高く、重い副作用は頻度が低くとてもレアな出来事になります。またこれも一般論ですが、有効性が高い薬剤には副作用が一定の確率で存在し、逆に有効性が低い薬剤は副作用の頻度も低い、ことが多いです。インターネットで副作用のところを一つ一つ読んでいくと、肺炎、結核、リンパ腫、重症薬疹、肝障害、腎障害などから、軽い消化器症状や倦怠感にいたるまでいろいろな事が書かれています。これらが全部自分に当てはまるような気がして、恐ろしくなる人も多いです。ぜひ、頻度(どれくらいの確率で起こるか)というところも読んでもらいたいのですが、ほとんどの副作用は2,3%、多いもので10%程度、少ないものでは1000人に1人程度、といった感じです。決して全員に起こるわけではありません。もしも全員に副作用が起こるなら危なっかしくて我々も処方できません。
また、副作用にはある程度、発生が予想される患者がいます。多くは腎障害や肝障害が元からあって、薬剤の投与量に制限があるような方です。こうしたリスクの高い方にはわざわざリスクの高い薬剤を処方しません。医師は患者様の身体の情報を総合的に判断し、もっとも有効で、かつ安全な薬剤を選択し、処方します。いろいろと考えて、安全に使えそうな薬剤を選んでいますが、それでも一定の確率で、残念ながら、副作用が出てしまうことがあります。重篤な副作用が出た場合は、我々医療者が責任をもって対処し、治療します。副作用が怖い、というのは理解可能な心理だと思います。恐怖心のある方に薬を投与しても、おそらく、内服してくれません。「なぜ、薬を飲まなければいけないのか?」という理由付けが必要です。
ある人は、大好きな趣味を再開したいから治療を受けると言いますし、ある人は仕事が続けられるように治療を受けたい、と言います。治療の理由付け、モチベーション、目的はとても大事です。治療の理由やモチベーションは人それぞれですが、それを達成する手段として、治療薬を服用することが必要なのです。リスクゼロにしようと思えば、治療しない、という選択もあるかもしれませんが、この選択はあまりお勧めできません。理由は上述の通りです。治療せずに寝たきりになる危険性をあえて選ぶことが本当に有益なのか、ということです。薬剤のリスク(=副作用)はできるだけ少なくするように医療者がお手伝いします。ぜひ、リスクを理解しつつ、薬の効果を最大限に得られるように工夫しながら、意義のある関節リウマチ治療を受けていただきたいと思います。