薬を減らしたい方(ドラッグフリー寛解)

関節リウマチの薬を減らしたい方へ

関節リウマチの患者様の中には、たくさんの種類の薬剤を服用している方がいらっしゃいます。それぞれの薬剤に意味があり、医師が判断して処方したものを服用されているわけですから、そのこと自体を責めるつもりはありません。ただ、よく内容を見てみると、本当に必要なのか、もっと減らせるのではないか、と思うような薬剤もあります。また、患者様から「たくさん薬を飲んでいるが、もっと少なくならないのか?」と聞かれることもあります。こうした患者様にお答えするためいくつかの方法を考えてみたいと思います。

プレドニゾロン(ステロイド)

「関節リウマチ」に対してプレドニゾロンを使用している場合、まず、減量できるか、中止できるかを検討しましょう。関節リウマチの痛みにはステロイドは本当によく効きます。ただし、長期間のステロイドは副作用が多くなるばかりで、あまり意味がないことが様々な研究で明らかになっています。最近の治療ガイドラインを見ても、治療の早期に、短期間、使用することは認められていますが、長期間使用は記載されていません。ここでは「関節リウマチ」に絞ってお話しします。例えば、「全身性エリテマトーデス」「血管炎」「悪性関節リウマチ」「筋炎」「リウマチ性多発筋痛症」などの病気の場合とは異なりますのでご注意ください。これらの病気ではステロイドをよく使用しますし、長期間使用することも多いです。一方、合併症の無い「関節リウマチ」の場合、ほとんどのケースでステロイドは不要です。合併症とは例えば「間質性肺炎」「腎炎」などであり、こうした合併症があると、長期間のステロイドが必要になることがあります。ここでは、こうした合併症のない「関節リウマチ」の方でステロイドを服用している場合を考えたいと思います。

ステロイドは関節リウマチの疼痛にとてもよく効きます。早い人では飲み始めて次の日には痛みが取れて楽になることもあります。従いまして、ほとんどの人は、「この薬だけでいいのではないか」と思います。しかし実際にはステロイドだけ内服しても、あまりメリットがありません。1つ目の理由は、ステロイドは「治療薬」ではない、ということです。残念ながら、ステロイドをいくら服用しても骨破壊、関節破壊が進行して変形が進んでしまいます。ステロイドのみによる骨破壊の進行抑制効果は証明されていません。もう一つの理由は長期投与に伴う「副作用」です。関節リウマチに用いるステロイドの量はそれほど多くないので、短期間使用であればほとんど問題ありません。長期間使用しますと、骨粗しょう症、ムーンフェイス(顔が丸くなる)、皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなること)、色素沈着(皮膚の黒ずみ)、四肢の筋力低下、などが起こります。また、他の免疫抑制剤と組み合わせて使用する場合、日和見感染症といって、通常ではあまり出てこない、「ニューモシスチス肺炎」などの感染症にかかることもあります。ステロイドは各種の感染症のリスクを上昇させることが分かっています。女性の場合、閉経後に急速に骨粗しょう症が進行しますが、ステロイドを内服していますとこの骨密度がさらに低下して、骨折しやすくなります。現在は骨粗しょう症の治療薬が良くなっていますので、対策が取りやすくなりましたが、万全とは言い切れません。免疫抑制剤や生物製剤の副作用もしばしば問題になりますが、一般的には長期のステロイド内服のほうが副作用の問題が多くなります。以上の点を考慮しますと、関節リウマチの患者様で、漫然とステロイド治療を続けることは有用とは言えません。中止できるのであれば、ぜひ中止を検討するべきです。ただし、注意点がいくつかあります。一つ目は、突然やめない、ということです。長期間服用している場合、突然中止するとステロイド欠乏によって体調が悪くなることがあります。特に長期間ステロイドを使用している場合、半年とか1年といった期間で、少しずつ減量する必要があります。焦って減量しないほうがいい場合もありますので、医師とよく相談したうえで計画的に減量しましょう。もう一つは中止できない人もいる、ということです。何十年もステロイド内服を継続している方の場合、ステロイド依存状態になっている場合があります。この場合、ステロイドを減量、中止すると全身倦怠感や関節痛、頭痛、嘔気など様々な症状が噴出することがあります。このような患者様の場合、減量は難しいことが多いです。
ステロイドを減量するタイミングは、他の薬剤によって、「関節リウマチ」の関節炎が十分にコントロールされているときです。活動性が疑われるときに、減量はしません。もしも活動性の高い状態で、ステロイド服用をなさっているのであれば、ステロイド以外の薬剤の増量、追加を検討するべきです。MTXを使用しているなら増量は選択肢になります。MTX増量が難しい場合、生物製剤やJAK阻害薬の追加がいいと思います。新規薬剤を追加することで関節リウマチの病態が安定し、スムーズにステロイドを減量できる症例をたくさん経験してきました。ステロイドを減量すると、2,3日だるさが出たりすることもありますが、ほとんどの場合、数日すると新しいステロイドの量に慣れてきます。ただし、体調が悪い状態が何か月も続く場合、減量は難しいので、他の薬剤による調整が必要かもしれません。最終的にステロイドフリー、ステロイドを飲まないことが長期的なメリットにつながります。時間をかけて少しずつ減量を考えていきましょう。

痛み止め

これも上記のステロイドと同様、治療薬ではありません。もしも関節リウマチのコントロールがよくなったら、痛み止めも減薬、中止へもっていくことが可能です。最近はCOX2選択的阻害薬(セレコックス®、ハイペン®、モービック®)があり、これらは胃腸障害が少ないとされていますので、胃薬を同時に使う必要がなくなります。薬剤の量を減らしたい場合、こうした薬への切り替えも一考です。関節リウマチ早期の方であまり関節変形が強くない場合、痛み止めは中止できることが多いですが、進行して関節変形が多い場合はなかなか中止できないこともあります。個々の症例によって、痛みは異なってきますので、痛み止めの使い方については医師とよく相談して適切な量で使用していきましょう。

生物学的製剤

MTXと併用して、注射の生物学的製剤を使用し、かなり深い「寛解状態」(痛みも腫れも全くない状態)が達成できているのであれば、生物学的製剤の間隔延長や中止を考慮します。

生物学的製剤は高額な薬剤であり、経済的な面でも、減薬や休薬のメリットはあります。これまでの様々な検討から、減量・休薬を検討する場合は、十分な「寛解」状態に達していることが必要です。弱い活動性が残存している場合は、再投与が必要になることが多くなります。適切なタイミングについてはあまり確定的なことは申し上げられませんが、半年程度全く痛みがなく、血液検査も画像検査も安定、ということであれば減薬、休薬を考慮していいと思います。

MTXと生物学的製剤を両方使っている場合、通常であれば生物学的製剤の減量や中止を考慮します。しかし、中にはMTXの嘔気や口内炎がどうしてもよくならず、まず、MTXを減らしたい、という患者様もいらっしゃいます。

TNFα阻害薬であればMTX中止はあまり得策ではないので、減量にとどめておいたほうがいいです。(MTXとTNF阻害薬の併用による有用性が示されている一方、TNF単独使用は有効性が低いという報告が多いです。また「抗薬剤抗体」という薬剤が効かなくなるような抗体が産生されやすくなる、という懸念もあります。)IL-6阻害薬であれば、MTXを中止できる可能性があります。もしもMTXを使わず、生物学的製剤の単独治療を行っている患者様の場合、中止(すなわちドラッグフリー)のハードルは高いです。まず、投与間隔の延長や減薬を慎重に行っていき、病気が再燃してこないかを慎重にモニタリングしてしくことが重要です。

関節リウマチの治療薬をできるだけ減らしたい、中止したい、という希望はたくさん伺います。医師としてはできるだけその希望に応えていきたいと思います。しかし、関節リウマチはいまだに原因のはっきりしない病気です。原因がわからない以上、原因を除去するような治療は望むことができません。ということで、現時点で「根治」「完治」を望むことはなかなか難しいということもご理解いただきたいと思います。私は安易に「関節リウマチは根治できます」という人がいたら、あまり信用しないほうがいいと思っています。薬剤なしで全く病気がなくなる患者様はまだ少数である、というのが現状のコンセンサスだと思います。

あまり夢も希望もない話をしてしまいましたが、一方で、新しい薬剤を効果的に用いた場合、一部「完治」に近いような状態まで到達する方がいらっしゃるのもまた事実です。まずは薬剤をしっかりと使って「寛解」を目指していきましょう。その後、減量できる薬剤があれば減らしてきましょう。できるだけ多くの患者様が必要最小限の薬剤で安定した状態になっていくことを目指していきたいと考えております。