当院でよく使う生物学的製剤の種類

生物学的製剤について

生物学的製剤生物学的製剤は、これまでの一般的な内服薬と異なり、生物(培養細胞)から産生される物質(蛋白質)を利用して作られた治療薬です。私たちの体には「抗体」という免疫にとって重要なたんぱく質があり、これらの働きによって外からのウイルスなどの外敵から自分の体を守っています。生物製剤はこの「抗体」の形によく似た構造をしており、ある特定の物質にくっついて、その物質の働きを抑えたり、阻害したりします。関節リウマチの治療に用いられる生物学的製剤は「TNFα」「IL-6」などのサイトカイン物質を限定的に阻害する「抗体」であり、関節リウマチの患者様に投与されると、これらのサイトカインをブロックして、治療効果を発揮します。関節リウマチでは「TNFα」「IL-6」などのサイトカインが異常に増加しており、この状態が、関節に炎症を引き起こして、最終的に骨を破壊させることが分かっています。アバタセプトを除く生物学的製剤は、「抗サイトカイン治療薬」と言い換えることができます。

現在日本で使用可能な生物学的製剤は8種類あります。5種類は「TNFα」を阻害します。2種類は「IL-6」を阻害します。残り1種類のアバタセプトはT細胞と他の細胞の信号伝達を阻害し、T細胞の働きを弱めます。現時点ではこの8種類ですが、今後、GM-CSF、CD20などの他のサイトカイン治療薬が関節リウマチに使用できるようになるかもしれません。
これらの生物学的製剤は投与法(点滴・皮下注射)、投与間隔が異なり、「抗体」のかたちも微妙に異なりますので、個々の患者様の特性や生活スタイルなどを考慮して、適切な薬剤を選択します。

ヨーロッパのガイドラインではまず初めに第一選択のMTXを使用し、3か月で改善が無いか、6か月使用して寛解状態に達していなければ、次にこれら生物学的製剤の使用を考慮することになっています。日本においてもMTXで効果不十分な症例に使われるケースが最も多いと思います。最近はテレビやインターネットで生物製剤を必ず使用すると思って病院に来る患者様もいらっしゃいますが、必ずしも全員が使用するわけではなく、例えば、最初に使ったMTXがとてもよく効く患者様もいらっしゃいますので、その場合は無理して使用することはありません。

他に、MTXがどうしても使えない患者様もいらっしゃいます。このような患者様の場合、MTX以外の内服薬を使用するケースもありますが、有効性を期待して生物製剤を導入するケースもあります。副作用や費用とのバランスをみて、判断、ということになります。

生物学的製剤は関節炎を抑え、痛みや腫れを軽減し、特に、MTXと併用することで、効果が増強して関節の破壊を抑制する効果が示されています。関節破壊・骨破壊の抑制は関節リウマチ治療でとても大事なことであり、将来の関節変形から引き起こされる、日常生活動作レベルの低下を防ぐことができます。これまでに報告されてきた臨床研究のデータを参照しますと、有効と判断される方が8~9割、著効したと判断される方が3~4割となっています。

治療している最中に、関節リウマチの活動性がほとんど認められない、痛みのほとんどない状態、いわゆる「寛解」状態が長期間つづきますと、一部の患者様では破壊された骨が修復されたりします。

よくある質問に、「生物学的製剤をいつまで続ければいいのか」があります。値段の高い薬剤ですし、副作用が心配になるのもよくわかります。ここまで投与したら、中止しても大丈夫、という確固たる指標があればいいのですが、そこまではっきりとした指標はありません。

これまでの研究を見ますと、比較的早期に生物学的製剤を導入した症例や骨破壊の少ない症例は止められる傾向がある、という程度の事はわかっていますが、早めに導入しても中止できない症例も数多く経験されます。かなり深い寛解状態、すなわち、全く痛みが無く、血液検査でも全く異常がないような状態までコントロールされた症例であれば、中止できる可能性が高くなります。弱い活動性がある状態であれば、中止はしない方が良いです。よくやる手段として、「投与間隔の延長」「投与量の減薬」があります。これは比較的行いやすいし、もしも延長して少し調子が悪くなるようであれば、またもとの量にもどせばいいからです。ただし、むやみに間隔延長を繰り返しますと、「抗薬剤抗体」というありがたくない抗体が産生し、せっかく生物製剤を投与してもこの抗体が薬剤を中和してしまいます。こうなるとそれまで効果を発揮していた生物製剤がまったく効かなくなるということが起こります。生物製剤は投与量を増量することは比較的簡単で、安全性もそれほど大きく変わらないのですが、投与量を減らすのは長期的な観点で考えるとリスクの大きい行為となりえます。安定していてかつ安全に投与ができているのであれば、まずは間隔の延長をトライして、それでも大丈夫であれば中止を検討しますが、無理はせず、というスタンスが今のところは無難な考え方と思います。しかし、経済的な問題など、個々の患者様で事情は異なりますので、中止の必要性や意義については医師とよく相談をしていただければと思います。


副作用は主に免疫抑制によるものです。免疫の働きを弱めることで関節リウマチに効果的に作用しますが、一方で、細菌やウイルスなどからの防御反応も弱くなってしまう可能性があります。市中肺炎や結核、ニューモシスチス肺炎などの感染症の発生には注意が必要であり、結核については感染した既往が無いか、血液検査を行ってスクリーニングしますし、ニューモシスチス肺炎については発症しやすい人のリスク因子としてステロイド使用、65歳以上、肺疾患の既往、の3点が分かっていますので、こうしたリスクを持つ場合にはST合剤という薬剤を予防的に使用することもあります。B型肝炎の再活性化も問題になったことがあります。B型肝炎などの抗体のスクリーニングもしっかりと事前におこないます。他の副作用として、発疹・喘息などのアレルギー反応、乾癬やSLEなどの他疾患の発症などがあります。とにかく安全に使用しなければ意味がありませんので、安全に行えるための準備を入念に行ってから薬剤導入することを心掛けています。万全を来して導入しても一定数の副作用は残念ながら発生します。

大切なのは、副作用が出てしまった場合に、適切に、早期に対応することです。生物製剤を導入したすべての患者に副作用が起こるわけではなく、ほとんどの副作用は数パーセント未満であることがわかっています。あまり神経質になるのもよくないですが、特に大事なのは肺炎だと思いますので、肺炎が疑わしければ、我慢せずに早めに病院を受診していただければと思います。早期診断、早期治療が重要です。

インフリキシマブ(レミケード®)

関節リウマチの治療において2003年、日本で最初に承認された、「生物学的製剤」です(米国で1999年、ヨーロッパで2000年承認)。歴史が最も古いため安全性のデータが豊富であり、関節リウマチ以外の病気にも使用されています。

TNFαを阻害する薬剤の中で唯一の点的製剤であり、体重換算で投与量を決定するため、もしも体重が大きい人でも安定した効果が期待できます。点滴時間は2時間程度ですが、アレルギー反応が出やすい人は長時間投与する場合もあります。また点滴の前にアレルギー予防目的に抗ヒスタミン薬や少量のステロイド点滴を行うことがあります。インフリキシマブは導入として0週、2週、6週の3回投与したのち、4-8週間隔で点滴を行ってきます。他の薬剤と違って、投与量の調整が可能であり、はじめは体重1kgあたり3mgを投与します(体重50Kgの人は150mg)が、効果が不十分であれば4週間隔で体重1kgあたり6mg、8週間隔だと1Kgあたり10㎎(体重50kgの人だと最大500mg)まで増量できます。この投与量調整が自在にできる点はインフリキシマブの最大の特徴であり、患者様の個々の状態に合わせて、適切な量を投与することが可能となっています。


インフリキシマブは一部マウス由来の成分があるため、上述の「抗薬剤抗体」ができやすいとされています。この「抗薬剤抗体」の出現を抑えるため、インフリキシマブはメトトレキサート(MTX)の併用が必須となっています。すなわち、インフリキシマブ単独で使用することはできないため、MTXが使用できない患者の場合はインフリキシマブの使用もできません。もしもMTXが使用できないが、どうしてもTNFα阻害治療が必要な場合はインフリキシマブ以外を選択する必要があります。(ただし、他のTNFα阻害薬も、MTX不使用の場合、効果が減弱することが分かっています。)

エタネルセプト(エンブレル®)

エタネルセプトは皮下注射の製剤であり、通常50mgを週1回投与します。他の生物製剤は大半が「抗体」の形となっているのと違い、エタネルセプトは「受容体」と抗体の「FC部分」を融合させた特殊な構造をとっています。この特殊な構造のため、インフリキシマブでしばしば問題になる「抗薬剤抗体」が出にくい、という特性があります。このため長期間にわたって効果が持続することになります。10年以上この薬剤を使用されている方もいらっしゃいます。

効果の発現は上述のインフリキシマブに比べて比較的ゆっくりとしていますが、これまでの発売後データでも副作用の発生が比較的少なめであることが分かっています。皮下注射製剤のため、投与した皮膚に発赤や腫脹などの皮疹が出現することがあります。ほとんどの場合軽症で投与継続可能なことが多いのですが一部、重篤な場合は投与を中止します。副作用がゼロというわけではありませんので、結核などの事前スクリーニングなどは他の薬剤と同様、きっちりと行う必要があります。半減期が短いため、もしも副作用が起こった場合に対応しやすい、ということで、高齢者でも使用される傾向があります。

アダリムマブ(ヒュミラ®)

アダリムマブは世界的にはもっとも早く使用された生物製剤ですが、日本ではTNFα阻害薬のなかでは3番目の2008年に承認されました。2週間に1回の皮下注射です。MTX併用の場合、1回40mg、単独の場合1回80mgです。十分量のMTXとの併用で有効性が高いと言われています。アダリムマブは疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)との同時開始が保険で認められている薬剤です。一般的にはMTXを使用して十分な効果が発揮できない場合に生物製剤を導入しますが、本薬剤は、疾患活動性が高く関節破壊の進展が早いと予想される患者さんには、早い段階から使用することが可能です。

ゴリムマブ(シンポニー®)

ゴリムマブはTNFαに対する結合力が高く、出来上がった製剤にマウス由来成分がほとんど入っていない特徴を持つ、新しい世代の抗TNFα抗体として2011年に承認されました。これまでの薬剤にくらべて「抗薬剤抗体」の出現頻度がすくなめであり、結合力が高いことから4週毎の投与が可能になりました。MTXを併用する場合、1本50mgまたは2本100mg、MTXを併用しない場合100mg(2本)を皮下注射します。「4週間に1回」の投与で済む、という点が最大の特徴であり、4週間隔にもかかわらず、他のTNFα製剤と同等の効果を発揮します。皮下注射製剤の中でもっとも投与間隔が長い、という点が支持されている理由だと思います。また、1本または2本と投与量を調整できることも特徴であり、個々の患者様の特性に合わせて用量を調整できるのはメリットです。

承認当初は病院での皮下注射のみでしたが、その後、他の薬剤と同様、自己注射も可能になりました。仕事が忙しくて病院への来院が不規則になりやすい方、もともと他の薬剤で自己注射をやったことがあって自己注射に抵抗感の少ない方などには良い適応になります。もちろん、自己注射が全くできない人、抵抗感の強い人、4週ごとの通院が問題ない人、についてはこれまで通り、病院で注射を受けてもらうことが可能です。ご高齢で家族のサポートも得られているはずなのですが、飲み忘れが多くて、定期的な内服薬による治療がどうしてもうまくいかない人もいらっしゃいます。このような人にも月1回の皮下注射治療は安全面における懸念が無いことを確認できれば、投与することは可能です。個々の患者様のライフスタイルにあわせて病院注射、自己注射が選べるのは利点の一つと考えられます。

セルトリズマブ・ペゴル(シムジア®)

セルトリズマブはTNFαに結合する部分に改変があり、TNFに対する結合親和性を高め、さらにFC部分の代わりにポリエチレングリコール分子を付加しています。この独特な構造から、血中半減期が安定し、「抗薬剤抗体」もできにくいとされています。この薬剤は2週間に1回の皮下注射であり、最初の3回は2本ずつ投与し、そのあとは1回1本ずつ投与します。またFC部分を持たないことから、理論上は妊婦さんの胎盤を通過できず、他の生物製剤よりもより安全に妊婦さんへ使用できるとされています。妊娠を考えている女性には第一選択となることの多い生物製剤となっています。

トシリズマブ(アクテムラ®)

ヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体製剤で、わが国で開発され、現在は世界中で使用されている薬剤です。IL-6という炎症性サイトカインはTNFαと同様、関節リウマチの病態において、重要な物質であることが分かっています。トシリズマブはIL-6の受容体を阻害し、多くの臨床研究で関節リウマチに対する有効性が示されています。トシリズマブはこれまで説明してきたTNFαと違うサイトカインを抑制しますので、TNFαを阻害してもコントロールできない難治性の関節リウマチ患者さんでも、効果を発揮する可能性があります。また、TNFα阻害薬ではMTXを併用しないとしっかりとして関節破壊抑制効果が示されないことが多かったのですが、トシリズマブはMTXを併用しない状況でも(つまり、単独の治療でも)骨破壊の抑制効果が示されています。これはMTXをどうしても使うことができないような患者様にとって、朗報といえます。これまではMTXが使えない場合、治療の選択肢が非常に狭まっていましたが、このIL-6治療の登場によって、治療選択肢が増えることになりました。

トシリズマブは4週間に1回、点滴で投与するか、1-2週間に1回、皮下注射で投与することができます。毎週1回の皮下注射投与にすると4週間で600mg以上投与することになり、点滴製剤よりも多くの量を投与することができます。点滴投与で効果が不十分な場合、毎週1回の皮下注射投与を試すことがあります。

トシリズマブは完全ヒト化抗体であり、「抗薬剤抗体」の発現率が低く、他の生物製剤と比較して、継続率の高い薬剤です。長期間、本薬剤の投与を受けている患者様も多くいらっしゃいます。日本で作られた薬剤であることから日本人の臨床データが豊富であり、安全性のデータも多いことから、感染症の発生に留意すれば、他のTNFα製剤と同様に、安全に使用することが可能です。ただし、臨床でよく使われている採血項目のCRPが陰性になってしまうことから、血液データのみでは感染症の発生を見逃すケースが懸念されています。それでも、感染症に特徴的な症状(咳、息切れ、咽頭痛、皮疹、発熱、微熱など)は出てきますので、体調の変化を感じた場合はできるだけ早く病院にご相談ください。他の生物製剤と同様、副作用も早期発見、早期治療が大事です。

サリルマブ(ケブザラ®)

サリルマブは2017年に承認された、関節リウマチに対する生物学的製剤で最も新しい薬剤です。トシリズマブと同様、IL-6というサイトカインの働きを阻害する薬剤です。IL-6受容体を阻害することからトシリズマブと作用は同じになりますが、IL-6受容体に対する親和性がより高くなっており、2週間に1回の皮下注射で効果的にIL-6の働きを抑制します。これまでIL-6阻害薬は1種類のみだったため、はじめトシリズマブが有効だったのに効果が弱まってしまった場合(いわゆる二次無効)、選択できる薬剤はありませんでした。サリルマブの登場により、こうした患者様はサリルマブへ切り替えることが選択肢の一つになりました。IL-6阻害はMTX不使用でも効果が期待できる薬剤であり、TNFα不応の症例に使うこともできることから難治性関節リウマチ患者様の治療になくてはならない存在と考えられます。

アバタセプト(オレンシア®)

アバタセプトはこれまでのサイトカインを阻害する薬剤と異なり、免疫担当細胞の白血球の中でも、特にリンパ球、T細胞を標的とする薬剤です。T細胞は関節リウマチや膠原病の病態において重要な働きをする細胞の一つです。アバタセプトはT細胞の活性化を阻害することで関節リウマチの病態を抑制する薬剤であり、臨床試験で有効性が示されています。TNFα、IL-6ではない、第三の薬剤としての位置づけであり、他の生物製剤とそん色ない効果が期待されます。特にTNFαやIL-6が全く効かない患者でも有用性を示すことがあります。また市販後調査の結果によると、患者背景が異なるため、直接的な比較ではないものの、他の生物製剤にくらべて安全性が高く、長期間安定して使うことが可能となっています。MTX不使用でも一定の効果を示すことも一つの特徴です。高齢者で腎機能が悪く、内服薬の選択肢も限られるような場合に選択される可能性のある薬剤です。本薬剤は、月に1回の点滴の他、週1回の皮下注射投与も可能であり、患者様のライフスタイルに合わせて、投与方法を変更できるという特徴もあります。