前回は内服薬とビスホスホネート注射剤について解説しました。今回は後編で、近年登場した比較的新しい骨粗しょう症治療薬について解説します。今回ご紹介する3剤はすべて注射剤です。
・デノスマブ(プラリア®)
骨吸収抑制薬の新しい注射薬です。RANKLという物質を阻害する抗体製剤であり、生物学的製剤(ヒトIgG2型モノクローナル抗体)です。RANKLは破骨細胞の分化(破骨細胞の成長)を担う物質であり、これをブロックすることで破骨細胞の働きが落ち、骨吸収が抑制されます。半年に1回の皮下注射であり、飲み忘れの心配はありません。(関節リウマチ患者の骨破壊抑制に対する場合、3か月に1回の投与が可能です。)
副作用として低カルシウム血症と顎骨壊死があります。デノスマブ治療中は低カルシウム状態を予防するため、カルシウムとビタミンDの合剤(デノタス®)を1日1回2錠服用します。(すでにビタミンD3製剤を服用している場合はそちらを継続します。)腎障害がある場合、カルシウム濃度が上昇しすぎる場合があり、その場合は中止になります。半年に1回の注射はとても楽ですが、サプリメントの連日服用が必須となりますのでその点はご承知おきください。
顎骨壊死は前回のビスホスホネートで記載した内容と一緒です。投与前に大きな歯科治療を終わらせること、投与中は歯科医師にデノスマブ(プラリア®)治療中であることを伝えること、口腔の衛生状態を良好に保つため定期的に歯科でチェックを受けてもらうこと、がとても重要です。プラリア®投与中に抜歯などが予定された場合、「顎骨壊死研究会ポジションペーパー2016」によりますと、「デノスマブの血中半減期が約1か月であることなどを加味して、歯科治療の時期や内容を検討することは可能であろう。」と記載されています。デノスマブ投与中に歯科治療がどうしても必要な場合は、歯科医と相談の上で治療方針を決定することになります。
デノスマブ投与中止後に骨折が増加する可能性が指摘されています。デノスマブには投薬期間の制限はなく、長期間使用することも可能ですが、中止基準も特に定められていません。中止後に骨代謝マーカーが元に戻るというデータもあり、中止後は比較的速やかに、ビスホスホネートなどの他の骨吸収抑制剤を開始するべきでしょう。
骨粗しょう症ガイドラインにおける有効性評価ではすべてA評価(骨密度上昇、椎体骨・非椎体骨・大腿骨近位の骨折抑制)でした。ビスホスホネートと同等の薬効が期待されることから、ビスホスホネート使用が難しい患者様などでは選択肢になりやすい薬剤と言えます。
・テリパラチド、テリパラチド酢酸塩
副甲状腺ホルモンは骨を作る「骨芽細胞」の働きを活性化させるホルモンであり、骨の合成に重要なホルモンの一つです。テリパラチドはこの副甲状腺ホルモンの一部を合成した製剤であり、副甲状腺ホルモンと類似の作用で、骨密度を上昇させます。これまで説明してきた薬剤はすべて骨吸収抑制作用が中心でしたが、このテリパラチドと後述するロモソズマブは「骨形成」促進薬です。骨形成の作用を示すことから「強力な」骨粗しょう症治療薬と言えます。保険適応病名も「骨折の危険性の高い骨粗しょう症」となっており、通常の骨粗しょう症治療薬よりも一段階の上の位置づけとなっています。テリパラチドとテリパラチド酢酸塩があり、投与間隔が異なります。高額な薬剤ですが、近年、やや薬価の安いバイオシミラーも登場しています。
・テリパラチド:毎日1回 自己注射
・テリパラチド酢酸塩:週1回 皮下注射(病院で注射)もしくは 週2回 自己注射
血中カルシウム濃度が上昇する場合があり、定期的な採血によるモニタリングが必要です。長期投与の安全性の問題で、投与期間は24か月(2年間)です。2年の治療が終了したら、ビスホスホネートやデノスマブに切り替えることが一般的です。
骨密度の上昇効果、椎体骨折、非椎体骨折の抑制効果に対してA評価です。
テリパラチドは第一選択薬という位置づけではなく、既存治療にも関わらず骨折があった場合や、高齢者ですでに複数の骨折があり今後も骨折リスクが高いと判断される場合、などに適応があります。自己注射製剤の場合、自己注射が安全に行えるか、理解力があるか、家族のサポートがあるか、などが自己注射を導入する際のポイントになります。週1回で通院可能であればテリパラチド酢酸塩を選択します。
・ロモソズマブ(イベニティ®)
ロモソズマブはスクレロスチンという物質を阻害するモノクローナル抗体製剤で、近年承認された強力な骨粗しょう症治療薬です。毎月1回につき2本を皮下注射します。12か月で治療は終了します。ロモソズマブは骨形成促進作用と骨吸収抑制作用を同時に発揮します。これまで骨形成作用がある薬剤はテリパラチドのみでしたから、ロモソズマブの登場によって骨形成作用のある薬剤の選択肢が増えました。月1回の皮下注射であることからテリパラチドよりも利便性が高く治療の継続率が高まることが予想されます。テリパラチドと同様に保険適用は「骨折の危険性の高い骨粗しょう症」です。ガイドラインにはまだ未記載ですが、強力な骨密度上昇作用があることからテリパラチドと同等の位置づけになることが予想されます。
心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞)の副作用が報告され、添付文書にも「有益性投与」の記載が追加されました。心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症の既往がある場合や動脈硬化のリスクが高い方は使用を避けたほうがいいと考えられます。血中カルシウム濃度の低下する場合があることから定期的な採血は必要です。血栓症のリスクが高くなく、これまでの治療に抵抗性の骨折があり、複数の椎体骨折がある場合などには投与を検討するべき薬剤と言えます。
骨折リスクと薬剤選択(まとめ)
現時点で参照できるガイドラインなどを総合した薬剤治療選択をまとめます(私見を含みます)。骨粗しょう症と診断したらまず個々の患者様の骨折のリスクを把握します。
・リスクが低い場合、エルデカルシトールやSERM(女性のみ)から治療を開始します。
・リスクが高い場合やステロイド性骨粗鬆症などは、ビスホスホネート・デノスマブを開始します。
・すでに複数の骨折がある場合や非常に骨密度が低い場合、複数の骨折リスク因子がある場合などはテリパラチド・ロモソズマブの投与を考慮します。
治療の有効性判定は主にDXAによる骨密度測定で行い、適宜、骨代謝マーカーを測定します。
骨粗しょう症はほとんどの場合、無症状です。なかなか治療の意欲もわかず、他の生活習慣病などに比べて後回しにされやすい病気だと思います。近年の研究で、健康に長生きするためには骨粗しょう症対策も重要であることがわかってきました。薬剤が進歩し、治療の選択肢も増えてきました。保険を使って治療ができます。健診で骨密度が低めと言われた方、ご自身の骨密度に不安がある方がいらっしゃいましたら、お気軽にご来院の上、ご相談をいただけたらと思います。