コラム

子宮頸がんHPVワクチンについて

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はじめに

 2022年4月から子宮頸がん(ヒトパピローマウイルス;HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開されることになりました。また、厚生労働省は積極的勧奨の中断で接種機会を逃した平成9~17年度(1997~2005年度)生まれの女性が来年4月から無料で接種を受けられるようになります。HPVワクチンを接種してきた医療関係者の一人として、今回の決定はとても有意義なものと思われます。世界の先進国の中で日本のHPVワクチンの接種率は最低の水準です。若い女性の死因の一つであり、かつ、ワクチンで予防できるがんを少しでも減らすことが急務です。

 小学6年生から高校1年生の女子を対象としたHPVワクチンは2013年に積極的勧奨になったものの、接種後に全身痛を訴える人が相次いだ結果、積極的接種から外された経緯があります。その後、接種後のデータの蓄積や統計学的、科学的検討を重ね、有益性と安全性のバランスを考慮したのちに、今回の積極的勧奨再開に至りました。副反応がゼロのワクチンは残念ながら存在しません。しかし、あらかじめ情報を得ていることで対処が容易になり、症状を抑えることはできるかもしれません。得られるメリット(=がん予防)とデメリット(=副作用)とのバランスを考えて、最終的に接種を受けるかどうか決めていただければと思います。

 HPVワクチンについて、厚労省などの情報をもとにまとめました。ご自身のお子様に受けさせるかどうか、悩んでいらっしゃる方の参考にしていただければ幸いです。

目的

日本では子宮頸がんに年間1.1万人が罹患し、2800人の方が残念ながら毎年命を落としています。20歳台から40歳台の発症が多く、若い女性の癌死の代表的な原因疾患となっています。子宮頸がんは早期に発見されれば決して予後の悪いがんではありません。ただし、手術や放射線治療に伴って妊娠ができなくなる方も年間約1200人発生しています。子宮頸がんワクチンはほぼ100%の確率でHPVに感染しており、このHPVの持続感染によって子宮頸部異形成が発生し、この異形成が癌に進行することが明らかになっています。HPVワクチンの目的はこのHPV感染症を予防することで、将来の子宮頸がんの発生を予防することです。

効果

 これまで、公費接種のワクチンは2価HPVワクチン(サーバリックス®)と4価HPVワクチン(ガーダシル®)でしたが、2023年4月から9価HPVワクチン(シルガード9®)の公費接種が可能となりました。海外の臨床治験ではサーバリックス®接種によって、自然感染で獲得する数倍量の抗体を少なくとも9.4年維持することがわかっています。この抗体によってHPV感染を予防し、最終的に子宮頚がんの発症が抑制されることが期待されます。

 海外の報告ではHPVワクチンによってHPV感染症が77.9%減少し、子宮頸部異形成が51%減少しました。
 厚労省の推計ではHPVワクチンによって10万人あたり859から595人の子宮頸がんを回避し、10万人あたり209から144人の死亡を回避できる、としています。15歳の女性が1学年に60万人程度いますので、各学年、4000人程度の子宮頚がん発生を回避し、1000人程度の死亡が減らせる、という推計になります。もしもこの推計通りであれば、かなり強いインパクトがあることが想像できます。「予防できるがん」は実はそれほど多くありません。他には肝臓がんの肝炎ウイルスワクチンや胃がんのピロリ菌などが代表的ですが、予防できるものはぜひ予防したい、と考えるのはごく自然な考え方だと思います。副反応ばかり注目されるワクチンですが、効果についてもきちんと理解することが重要です。

対象

 小学6年生から高校1年生の女子は公費(無料)で接種を受けることができます。また、平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性もキャッチアップ接種として無料で接種を受けることが可能です(2023年4月現在)。

 ガーダシル®、シルガード9®は公費適応年齢でなくても、9歳以上のすべての女性は自費で接種可能です。ガーダシル®は男性も自費で接種を受けることができます。

予約・接種方法・期間

 接種を希望される方はまず当院へお電話し、1回目接種の予約をしてください。接種後30分、安静待機になりますので時間に余裕がある日程にしてください。また接種から24時間の運動は禁止ですので、部活動などの予定も確認してください。

 当日来院後、検温し、問診表を記載・提出していただきます。問診表には保護者のサインが必要ですのでご注意ください。中学生以上であれば必ずしも付き添いは必要ではありませんが、緊急連絡先の記載を忘れないようにお願いします。

 医師の問診、診察後に問題が無ければ接種となります。

 0.5mLの薬液を肩の筋肉内に注射します。(新型コロナワクチン接種は筋肉内注射でしたのでそれと同じ方法です。)

 投与後30分間、クリニック内で安静にして待機していただき、急性の副反応がないことを確認した後、帰宅できます。当日の入浴は可能ですが、接種部位を強くこすらないようにお願いします。接種24時間の激しい運動は避けてください。

投与回数・間隔について

 1回目の接種日を起点として、(ガーダシル®、シルガード9®の場合、)2か月後、6か月後にそれぞれ2回目、3回目の接種を行います。

 特に事由がなければ、0・2・6か月の3回投与が通常の投与スケジュールとなりますが、短縮する必要がある場合、2回目は1か月後、3回目は4か月後(0・1・4か月)の接種も認められています。

 逆に予定が入って数か月延期になる場合もあるかもしれませんが、接種は可能です。海外からの報告ですが、1年あけて接種した場合も抗体産生に大きな問題はなかったようです。日程については医師にご相談をいただければと思います。

 同じワクチンを3回接種することで十分な予防効果が期待できます。特別な理由がない限り、3回接種を完了しましょう。

 2023年4月から初回接種を15歳未満で行った場合、2回接種が認めらることになりました。この場合、2回目は6か月後です。

 新型コロナワクチンとの同日接種はできません。前後2週間あけて、接種になります。

費用

 小学6年生から高校1年生は無料です。 キャッチアップ接種(平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性)も無料です。

 自費接種の場合、1回あたりガーダシル®は17,000円、シルガード9は®26,000円です(2021年12月現在)。

 

副反応について

接種直後の副反応

・迷走神経反射:注射の痛みや恐怖心、興奮、緊張などの刺激によって、心拍数や血圧が下がり、気を失う(失神)ことがあります。注射が苦手な人や、恐怖心がある人は、事前に医師・看護師に伝えてください。通常は、横になって安静にするだけですぐに回復します。

・注射部位反応:ワクチン接種した部分が赤くなったり、腫れたりすることがあります。これは、ワクチンによって免疫がつくられるときの身体の反応によるもので、数日で消えることがほとんどです。注射の痛みはそれぞれ感じ方が異なるため、痛みを強く感じる場合も、それほど心配する必要はありません。

頻度の高い副反応

 ガーダシル®の添付文書(2021年8月改訂 第2版)から副反応について一部抜粋します。

10%以上

注射部位の疼痛(67.8%)、紅斑、腫脹

1%以上

注射部位の掻痒感、発熱、頭痛

0.1%から1%未満

浮動性めまい、感覚鈍麻、慶民、回転性めまい、下痢、腹痛、悪心、四肢痛、筋骨格硬直、四肢不快感、注射部位の硬結・出血・不快感・変色・知覚低下・熱感、倦怠感、白血球増加など

上記の通りです。注射部位の疼痛が最も多くなっています。

 

頻度の低い副反応

 頻度は低いものの、重篤な副反応の報告もあります。アナフィラキシー、ギランバレー症候群、急性散在性脳脊髄炎などです。これらが起こった場合は適切な医療機関への搬送を含め、迅速に対応をさせていただきます。

 接種後に広い範囲に広がる痛みや、手足の動かしにくさ、不随意運動等を中心とする「多様な症状」が起きたことが報告されています。これまで様々な調査が行われて「機能性身体症状」であることが推定されています。現時点でワクチン接種とこのような「多様な症状」との因果関係を立証することは非常に困難です。もしも接種後に多様な症状が出現し、これらが改善しない場合には協力医療機関への紹介など、責任をもって行わせていただきます。

 HPVワクチンは、国内で承認された定期接種のワクチンです。健康被害が生じた場合、「医薬品副作用被害救済制度」の対象となります。詳しくは下記のリンクをご覧ください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_kenkouhigaikyuusai.html

 

接種後の注意点

 HPVワクチン接種をしても子宮頚がんを完全に予防できるわけではありません。子宮頸がん検診は忘れずに受けましょう。20歳になったら2年に1回、定期的に検査を受けることが推奨されています。

 

2種類の肺炎球菌ワクチンについて

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 「肺炎球菌ワクチンに2種類あるって聞いたのですが違いがよくわかりません。どちらを打ったらいいのでしょうか?」

 こういった質問をいただくことがあります。こちらの質問に回答しながら、シニア世代にぜひ接種していただきたい、「肺炎球菌ワクチン」について解説します。

 

シニア世代に接種してほしい「肺炎球菌ワクチン」

 シニア世代に接種してほしいワクチンに「肺炎球菌ワクチン」と「帯状疱疹ワクチン」があります。肺炎球菌性肺炎は発症すれば入院を必要とする重篤な肺炎になることがあり、一部は致死的となりえます。帯状疱疹も国民の3人に1人が発症し、神経痛症状が長期に残存し長期間の治療を要する場合があり、また、発病部位が眼球に近ければ失明の可能性もあるため、やはり予防が重要と考えられます。どちらの疾患も発症すれば高額の医療費が発生します。ワクチン接種のリスクもありますので、リスク(危険性)とベネフィット(得られる利益)をバランスにかけて、接種を判断する必要があります。もしもワクチン接種のリスクが低いと判断される方は、得られる利益が大きいので、ぜひ接種を検討しましょう。(帯状疱疹ワクチンについては別のコラムで解説します。)

 

肺炎球菌感染症とは?

 肺炎球菌感染症とは、肺炎球菌という細菌によって引き起こされます。主に気道に含まれ、唾液などから飛沫感染します。約3~5%の高齢者では鼻や喉に常在菌として定着しているとされます。肺炎球菌が肺炎や気管支炎などの感染症を引き起こし、敗血症など重症化した場合、致命的になることもあります。

 2019年の死因の順位は、第1位「悪性新生物(がん)」、第2位「心疾患」、第3位「老衰」、第4位「脳血管疾患」、第5位「肺炎」でした。「肺炎」は常に4~5位に入る死因であり、決して軽視することのできない疾患と言えます。この肺炎の中で頻度の高い原因微生物の一つが「肺炎球菌」と考えらえています。「肺炎球菌ワクチン」はこれらの感染症の予防を目的としたワクチンです。

 

肺炎球菌ワクチンは2種類あります

 冒頭でお伝えした通り、現在65歳以上に接種が認められた肺炎球菌ワクチンは2種類あります。一つは「ニューモバックスNP®」、もう一つは「プレベナー13®」です。お住いの役所から郵送された接種券は通常、「ニューモバックスNP®」の接種になります。

 それぞれ、正式名称は下記のとおりです。

 

  ニューモバックス®:23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)

  プレベナー13®:13 価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)

 

 2剤の大きな違いは免疫誘導能力の違いです。ニューモバックスNP®は肺炎球菌の莢膜多糖体(ポリサッカライド:細菌の外側を包む膜のこと)をワクチンにしたもので、免疫原性が低くT細胞「非」依存的な免疫応答を誘導します。プレベナー13®は抗原となる肺炎球菌の莢膜多糖体に、キャリア蛋白を結合(コンジュゲート)させています。このため、T細胞依存型の免疫応答の誘導が得られます。理論的にはこのT細胞依存型の反応のほうがメモリーB細胞の免疫応答も誘導されるので、長い期間メモリー(記憶)される可能性が高く、強い免疫誘導が起こると考えられます。ニューモバックスNPが5年ごとの接種が推奨されているのに対し、プレベナー13®の反復接種は不要です(つまり生涯で1回のみです)。

 ニューモバックスNP®は23価ワクチン、プレベナー13は13価ワクチンであり、カバー率はニューモバックスNP®のほうが高いです。肺炎球菌には 93 種類の血清型があり、ニューモバックスNP®の23種類の血清型は成人の重症の肺炎球菌感染症の原因の64%を占めるという研究結果があります。

 これらのワクチンは日本呼吸器学会による「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」(第3版 2019-10-30)に詳しく説明されており、本コラムはこちらを参考にしています。さらに詳しく知りたい方は下記のサイトをご参照ください。

https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/statement/20191106170251.html

 

 

肺炎球菌ワクチンの効果

 ニューモバックスNP®の定期接種導入前の 2011 年 9 月から 2014 年 8 月の期間に実施された多施設前向き研究において、65 歳以上の高齢者における市中発症肺炎に対するニューモバックスNP®のワクチン効果が報告されています(文献1)。5 年以内のワクチン効果はすべての肺炎球菌性肺炎に対して 27.4%、ワクチン血清型の肺炎球菌性肺炎に対して 33.5%でした。また、重症の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)サーベイランスにおいて、ニューモバックスNP®接種の IPD に対するワクチン効果が報告されました(文献2)。全年齢層の IPD に対するワクチン効果は 45%で、65 歳以上におけるワクチン効果は39%でした。これらの研究より、ワクチンによる予防効果が高く、さらに、重症化を防ぐ効果も認められました。高齢者における肺炎球菌性肺炎は重症化すれば死に至る病です。こうした科学的効果が本邦より報告されており、65歳になったら接種をできるかぎり検討するべきと思われます。

 海外データ及び国内データから、プレベナー13®について、65 歳以上の安全性はニューモバックスNP®とほぼ同等、また免疫原性はニューモバックスNP®と同等もしくはより優れていました。また、プレベナー13®は侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)だけではなく、菌血症を伴わない肺炎球菌性肺炎を有意に減少させたと報告されています(文献3-6)。

 

肺炎球菌ワクチンの2種類、どちらを打つべき?両方打つことができるの?

プレベナー13®(PCV13)の接種後にニューモバックスNP®(PPSV23)を接種するとブースト効果が出て、より免疫応答が増し、予防効果が高まる、という考え方があります(PCV13-PPSV23 連続接種)。米国ではこのPCV13-PPSV23 連続接種を支持し、推奨しています。

日本呼吸器学会の「考え方(第3版)」を参照しますと、下記のような記載があります。

「このような背景から、合同委員会としては第 3 版の「考え方」において、第 2 版の「考え方」に引き続き、定期接種対象者が PPSV23 の定期接種を受けられるよう接種スケジュールを決定することを推奨する。また、65 歳以上の成人に対し、PCV13を接種後に PPSV23 接種(定期接種もしくは任意接種)を受ける連続接種スケジュールについても可能な選択肢とする。」

ということで、ニューモバックスNP®(PCV13)の定期接種を推奨していますが、PCV13-PPSV23 連続接種について、考え方自体は否定していません。

PCV13-PPSV23 連続接種は理論的には「プレベナー13®」を先に接種したほうがいいとされています。(順番が逆だとダメ、ということではありません。)また、日本呼吸器学会の「考え方(第3版)」によりますと、プレベナー13®接種後、半年から4年以内にニューモバックスNP®を接種することが推奨されています。

ここからは私の個人的な意見になりますが、「5年ごとのニューモバックスNP®接種」をベースの考え方としつつ、肺炎リスクが高い方、糖尿病、肝疾患、腎疾患や免疫抑制治療中の方、喫煙者や肺線維症など呼吸器疾患があって重症化した場合に問題となる方、などについては「2剤連続接種」を検討するべきです。また、5年ごとに確実に接種できるか自信が無い、忘れてしまいそう、という方は、ある程度長期間の効果が期待できる「2剤連続接種」を選択してもいいかもしれません。(それでも5年ごとのニューモバックスNP®接種はぜひご検討ください。)

 

65歳未満でも接種できますか?

これまでのお話は基本的に65歳以上の方むけでしたが、65歳未満であっても下記に該当する方は接種を検討できますので、医師にご相談ください(自費接種)。

1)鎌状赤血球疾患、あるいはその他の原因で脾機能不全である患者

2)心・呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病、慢性髄液漏等の基礎疾患のある患者

 

関節リウマチなどで免疫抑制治療を行っている方、または行う予定の方は、下記の記載がありますので、医師と相談の上で接種を検討できます。

3A)(ニューモバックスNP®)免疫抑制作用を有する治療が予定されている者で治療開始まで少なくとも14日以上の余裕のある患者

3B)(プレベナー13®)基礎疾患もしくは治療により免疫不全状態であるまたはその状態が疑われる人

 

肺炎球菌ワクチンの副反応

それぞれのワクチンで報告されている副作用を下記に抜粋します。一般的なワクチン接種にみられる副反応として想定できる範囲内と思われます。ご心配な点があれば医師にご相談ください。

 

<ニューモバックスNP®で報告されているもの>

頻度の高いもの:注射部位反応(疼痛、熱感、腫脹、発赤)

1-5%程度:倦怠感、違和感、悪寒、発熱、筋肉痛、硬結、肝酵素上昇

1%未満:ほてり、掻痒感、咽頭炎、鼻炎、悪心、皮疹、腋窩痛

まれ:無力症、関節痛、CK上昇、可動性低下、感覚異常、熱性けいれん、めまい、嘔吐、食欲減退、リンパ節症、蕁麻疹、多型紅斑、血清病

稀に報告される重大な副反応:アナフィラキシー様反応、血小板減少、ギランバレー症候群、蜂巣炎様反応

 

<プレベナー13®で報告されているもの(小児以外)>

頻度の高いもの:注射部位反応(疼痛、熱感、腫脹、発赤、可動性低下)、頭痛、筋肉痛、疲労

1-10%:発疹、下痢、食欲減退、関節痛、発熱、悪寒

1%未満:掻痒感、悪心、嘔吐、リンパ節症、中期不眠症

まれ:血管性浮腫、多形紅斑、蕁麻疹、蕁麻疹様発疹、呼吸困難、気管支痙攣、皮膚炎、蕁麻疹、硬結、圧痛、易刺激性、傾眠状態、睡眠増加、不安定睡眠、不眠、筋肉痛増悪、関節痛増悪

稀に報告される重大な副反応:アナフィラキシー様反応、けいれん、血小板減少性紫斑病

 

 

肺炎球菌ワクチンの接種を避けたほうがいい人

・過去にワクチン接種でアナフィラキシーショックなどの重篤なアレルギー反応を起こしたことがある人

・明らかな発熱を呈している人

・重篤な急性疾患・感染症にかかっていることが明らかな人

・妊婦や授乳婦(予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること)

・その他、事前に問診表で不適当な状態にないかどうか確認し、医師が判断いたします。

 

肺炎球菌ワクチンの費用(2022年6月現在の情報です)

<公費> 「ニューモバックスNP®」は、年度中に65歳から5歳刻みの年齢(65・70・75・80・・・100歳)になる方を対象に定期接種となっております。生涯で1回に限り、公費の補助が受けられます。公費の場合、自己負担額は1,500円です。2回目以降は自費です。また1度自費でニューモバックスNP®を接種した方に公費の適応はありません。

<自費> 当院では「ニューモバックスNP®」:8,000円、「プレベナー13®」:11,000円です。

 

接種を希望する場合、どうすればいいですか?

まずはお電話でご予約ください。ニューモバックスNP®は(在庫があれば)当日以降、プレベナー13®は3営業日以後にご予約可能です。65歳未満の場合も基礎疾患があれば接種可能ですので、わからなければお電話でご相談ください。プレベナー13®、ニューモバックスNP®の連続接種のご希望も承りますのでご相談ください。

 

接種当日の注意点などありますか?

公費の場合は接種券を忘れずにご持参ください。肩の大きくあけられる服装が望ましいです。飲食の制限は特にございません。接種日の入浴は可能ですが、長い時間のお風呂は避けましょう。接種当日の激しい運動や、飲酒は控えてください。

 

 「肺炎球菌ワクチン」について解説いたしました。65歳以上の方にはぜひ接種していただきたいワクチンであり、65歳未満でも基礎疾患があって肺炎リスクを下げたい方におすすめできるワクチンと言えます。接種するかどうか悩んでいる方、接種を検討している方の参考になれば幸いです。

(参考文献)

1)Suzuki M, et al. : Adult Pneumonia Study Group-Japan (APSG-J). Serotype-specific effectiveness of 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine against pneumococcal pneumonia in adults aged 65 years or older: a multicentre, prospective, test-negative design study. Lancet Infect Dis. 2017 Mar;17(3):313-321.

2) 新橋玲子ら:成人侵襲性肺炎球菌感染症に対する 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの有効性.2018; IASR 39:115-6.

3) Jackson LA, et al. Immunogenicity and safety of a 13-valent pneumococcal conjugate

vaccine compared to a 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine in pneumococcal vaccine naive adults. Vaccine. 2013; 31: 3577–84.

4) Jackson LA, et al. Immunogenicity and safety of a 13-valent pneumococcal conjugate

11vaccine in adults 70 years of age and older previously vaccinated with 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine. Vaccine. 2013; 31: 3585–93.

5) Namkoong H, et al. Comparison of the immunogenicity and safety between polysaccharide and protein-conjugated pneumococcal vaccines among the elderly aged 80 years or older in Japan: An open-labeled randomized study. Vaccine. 2015; 33(2): 327-32.

6) Bonten MJ, et al. Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med. 2015; 372:1114-25.

 

骨粗しょう症の薬(後編)

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 前回は内服薬とビスホスホネート注射剤について解説しました。今回は後編で、近年登場した比較的新しい骨粗しょう症治療薬について解説します。今回ご紹介する3剤はすべて注射剤です。

 

・デノスマブ(プラリア®)

 骨吸収抑制薬の新しい注射薬です。RANKLという物質を阻害する抗体製剤であり、生物学的製剤(ヒトIgG2型モノクローナル抗体)です。RANKLは破骨細胞の分化(破骨細胞の成長)を担う物質であり、これをブロックすることで破骨細胞の働きが落ち、骨吸収が抑制されます。半年に1回の皮下注射であり、飲み忘れの心配はありません。(関節リウマチ患者の骨破壊抑制に対する場合、3か月に1回の投与が可能です。)

 副作用として低カルシウム血症と顎骨壊死があります。デノスマブ治療中は低カルシウム状態を予防するため、カルシウムとビタミンDの合剤(デノタス®)を1日1回2錠服用します。(すでにビタミンD3製剤を服用している場合はそちらを継続します。)腎障害がある場合、カルシウム濃度が上昇しすぎる場合があり、その場合は中止になります。半年に1回の注射はとても楽ですが、サプリメントの連日服用が必須となりますのでその点はご承知おきください。

 顎骨壊死は前回のビスホスホネートで記載した内容と一緒です。投与前に大きな歯科治療を終わらせること、投与中は歯科医師にデノスマブ(プラリア®)治療中であることを伝えること、口腔の衛生状態を良好に保つため定期的に歯科でチェックを受けてもらうこと、がとても重要です。プラリア®投与中に抜歯などが予定された場合、「顎骨壊死研究会ポジションペーパー2016」によりますと、「デノスマブの血中半減期が約1か月であることなどを加味して、歯科治療の時期や内容を検討することは可能であろう。」と記載されています。デノスマブ投与中に歯科治療がどうしても必要な場合は、歯科医と相談の上で治療方針を決定することになります。

 デノスマブ投与中止後に骨折が増加する可能性が指摘されています。デノスマブには投薬期間の制限はなく、長期間使用することも可能ですが、中止基準も特に定められていません。中止後に骨代謝マーカーが元に戻るというデータもあり、中止後は比較的速やかに、ビスホスホネートなどの他の骨吸収抑制剤を開始するべきでしょう。

 骨粗しょう症ガイドラインにおける有効性評価ではすべてA評価(骨密度上昇、椎体骨・非椎体骨・大腿骨近位の骨折抑制)でした。ビスホスホネートと同等の薬効が期待されることから、ビスホスホネート使用が難しい患者様などでは選択肢になりやすい薬剤と言えます。

 

・テリパラチド、テリパラチド酢酸塩

 副甲状腺ホルモンは骨を作る「骨芽細胞」の働きを活性化させるホルモンであり、骨の合成に重要なホルモンの一つです。テリパラチドはこの副甲状腺ホルモンの一部を合成した製剤であり、副甲状腺ホルモンと類似の作用で、骨密度を上昇させます。これまで説明してきた薬剤はすべて骨吸収抑制作用が中心でしたが、このテリパラチドと後述するロモソズマブは「骨形成」促進薬です。骨形成の作用を示すことから「強力な」骨粗しょう症治療薬と言えます。保険適応病名も「骨折の危険性の高い骨粗しょう症」となっており、通常の骨粗しょう症治療薬よりも一段階の上の位置づけとなっています。テリパラチドとテリパラチド酢酸塩があり、投与間隔が異なります。高額な薬剤ですが、近年、やや薬価の安いバイオシミラーも登場しています。

 ・テリパラチド:毎日1回 自己注射

 ・テリパラチド酢酸塩:週1回 皮下注射(病院で注射)もしくは 週2回 自己注射

 血中カルシウム濃度が上昇する場合があり、定期的な採血によるモニタリングが必要です。長期投与の安全性の問題で、投与期間は24か月(2年間)です。2年の治療が終了したら、ビスホスホネートやデノスマブに切り替えることが一般的です。

 骨密度の上昇効果、椎体骨折、非椎体骨折の抑制効果に対してA評価です。

 テリパラチドは第一選択薬という位置づけではなく、既存治療にも関わらず骨折があった場合や、高齢者ですでに複数の骨折があり今後も骨折リスクが高いと判断される場合、などに適応があります。自己注射製剤の場合、自己注射が安全に行えるか、理解力があるか、家族のサポートがあるか、などが自己注射を導入する際のポイントになります。週1回で通院可能であればテリパラチド酢酸塩を選択します。

 

・ロモソズマブ(イベニティ®)

 ロモソズマブはスクレロスチンという物質を阻害するモノクローナル抗体製剤で、近年承認された強力な骨粗しょう症治療薬です。毎月1回につき2本を皮下注射します。12か月で治療は終了します。ロモソズマブは骨形成促進作用と骨吸収抑制作用を同時に発揮します。これまで骨形成作用がある薬剤はテリパラチドのみでしたから、ロモソズマブの登場によって骨形成作用のある薬剤の選択肢が増えました。月1回の皮下注射であることからテリパラチドよりも利便性が高く治療の継続率が高まることが予想されます。テリパラチドと同様に保険適用は「骨折の危険性の高い骨粗しょう症」です。ガイドラインにはまだ未記載ですが、強力な骨密度上昇作用があることからテリパラチドと同等の位置づけになることが予想されます。

 心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞)の副作用が報告され、添付文書にも「有益性投与」の記載が追加されました。心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症の既往がある場合や動脈硬化のリスクが高い方は使用を避けたほうがいいと考えられます。血中カルシウム濃度の低下する場合があることから定期的な採血は必要です。血栓症のリスクが高くなく、これまでの治療に抵抗性の骨折があり、複数の椎体骨折がある場合などには投与を検討するべき薬剤と言えます。

 

骨折リスクと薬剤選択(まとめ)

 現時点で参照できるガイドラインなどを総合した薬剤治療選択をまとめます(私見を含みます)。骨粗しょう症と診断したらまず個々の患者様の骨折のリスクを把握します。

 ・リスクが低い場合、エルデカルシトールやSERM(女性のみ)から治療を開始します。

 ・リスクが高い場合やステロイド性骨粗鬆症などは、ビスホスホネート・デノスマブを開始します。

 ・すでに複数の骨折がある場合や非常に骨密度が低い場合、複数の骨折リスク因子がある場合などはテリパラチド・ロモソズマブの投与を考慮します。

 治療の有効性判定は主にDXAによる骨密度測定で行い、適宜、骨代謝マーカーを測定します。

 

 骨粗しょう症はほとんどの場合、無症状です。なかなか治療の意欲もわかず、他の生活習慣病などに比べて後回しにされやすい病気だと思います。近年の研究で、健康に長生きするためには骨粗しょう症対策も重要であることがわかってきました。薬剤が進歩し、治療の選択肢も増えてきました。保険を使って治療ができます。健診で骨密度が低めと言われた方、ご自身の骨密度に不安がある方がいらっしゃいましたら、お気軽にご来院の上、ご相談をいただけたらと思います。

骨粗しょう症の薬(前編)

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 前編では骨粗しょう症治療でよく使われる内服薬として、ビタミンD3製剤、SERM、ビスホスホネートについて記載します。(ビスホスホネートは一部注射もあります。)後編では注射の骨粗しょう症製剤について解説します。

 

・エルデカルシトール(活性型ビタミンD3)

 ビタミンDは骨代謝における重要なビタミンであることはこれまでに申し上げてきました。これらのうち活性型といって、そのままの状態でビタミンD受容体と結合して作用を発揮するものを活性型ビタミンD製剤と言います。天然型ビタミンD(サプリメントや食事に含まれるもの)に比べて、活性型ビタミンDは骨折抑制効果にすぐれています。活性型ビタミンD3ではアルファカルシドールが汎用されていましたが、エルデカルシトールはより強力な骨量増加作用を目的として合成されました。エルデカルシトールは消化管からのカルシウム吸収促進作用に加えて、骨吸収を抑制する作用を示し、アルファカルシドールに比較して有意に骨量を増加させ、椎体骨折の抑制効果を示しました。活性型ビタミンD3製剤においては唯一、椎体骨折抑制でA評価となっています。副作用は血中Ca濃度の上昇や尿路結石があるため定期的な血中ならびに尿中Ca濃度の測定が必要です。

 

・SERM(ラロキシフェン・バゼドキシフェン)

 SERMはエストロゲン受容体に結合しますが、乳房や子宮に作用せず、骨や脂質代謝には作用するように組織選択的に効果を発揮する薬剤です。骨に対しては骨吸収抑制作用によって骨密度の上昇作用があり、椎体骨折予防効果も示すことから、ガイドラインにおける評価もAとなっています。このほかにも、骨質の改善作用や乳癌リスクの低下、脂質代謝(コレステロールなど)の改善効果があります。更年期症状には無効です。また、女性ホルモンの治療全般に言えることですが、血栓ができやすくなる副作用が懸念されており、頻度は低いですが、静脈血栓塞栓症の発症に注意が必要です。血栓症の素因がある「抗リン脂質抗体症候群」の患者や静脈系の血栓症既往がある人には投与できません。後述するビスホスホネートに比べると内服時間はいつでもよく、1日1回の飲み薬で、胃腸障害もほとんどありませんので、飲みやすい薬剤と言えます。

 

・ビスホスホネート

 骨粗しょう症治療の中で、最も汎用されている薬剤です。体内に入ったビスホスホネートはまず骨に分布し吸着します。骨に吸着したビスホスホネートはやがて破骨細胞に取り込まれます。ビスホスホネートを取り込んだ破骨細胞はアポトーシスと言って自ら死滅していきます。この働きによって、骨吸収ができなくなり、骨密度が上昇する、という薬理作用となっています。日本で骨粗しょう症に使用できるビスホスホネートは内服または注射が5種類、注射のみが1種類あります。第一世代:エチドロネート、第二世代:アレンドロネート、イバンドロネート、第三世代:リセドロネート、ミノドロネート、ゾレドロネート(注射のみ)。エチドロネートは最近処方される頻度は減ってきましたので、第二世代以降が主に使用されています。ガイドラインにおいて、骨密度上昇・椎体骨・非椎体骨・大腿骨近位部骨折の抑制効果についてすべてA評価になったのが、アレンドロネートとリセドロネートの2種類です。

 内服は連日内服、週1回内服、月1回内服を選ぶことができます。食道炎などの胃腸障害の予防のため、起床時に服用し、コップ1杯(180ml)以上の水とともに服用することと、内服後に30分以上は横にならないことを守っていただく必要があります。食道の通過障害、アカラシアなどがある場合や30分以上座っていられない方は食道に薬剤が滞留する危険性があり、使用できません。この「起床時内服」がなかなか難しいという声もよく聞きますので、週1回タイプでも忘れやすくて難しい場合は月1回のタイプもありますのでご相談ください。

 重要な副作用は胃腸障害(食道炎)と顎骨壊死です。胃腸障害は軽い胃腸症状から重篤なものまであります。軽い症状の方であれば月1回の内服に変更することや、注射製剤に変更することで胃腸障害が解決する場合もあります。主治医にご相談ください。

 顎骨壊死は重篤な副作用の一つであり、経口ビスホスホネート服用者10万人あたり0.85人に発生する、という報告があります。頻度は低いですが、あごの骨が壊死してしまう病気であり、一度発生すると非常に難治性です。特に歯科における抜歯やインプラントなど、比較的大きな手術の後に発生することが知られています。通常、ビスホスホネートを開始するときに必ず歯科治療の有無や、今後抜歯などの予定が無いかを確認します。もしも大きな歯科治療が直近に控えている場合、ビスホスホネート開始をすこし待って、歯の状態が落ち着いたところで開始することもあります。もしもすでにビスホスホネートを服用している場合、休薬が必要になるケースがあります。ビスホスホネートで治療中の患者様が歯科で治療を受ける場合、ビスホスホネートを内服していることをきちんと歯科医につたえることが重要です。また、口腔内の衛生状態を良好に保つことが大事ですので、定期的に歯科でチェックを受けるようにすると良いでしょう。

 

・ビスホスホネート(注射製剤)

 現在、注射で使用できるビスホスホネートはアレンドロネート、イバンドロネート、ゾレドロネートの3種類があります。注射の利点は、胃腸障害の発生が起こりにくいこと、「内服後30分横にならない」というルールが不要なこと、内服忘れが多い人でも注射なら確実に病院で治療ができること、などです。また、一般的に内服薬のビスホスホネートは消化管での吸収率が低いという問題点があり、注射製剤は直接骨に届くため薬効が確実です。

  アレンドロネート:4週に1回 30分以上かけて点滴

  イバンドロネート:1か月1に1回、静脈注射

  ゾレドロネート:1年に1回15分以上かけて点滴

 カルシウムの血中濃度が低い場合は使用できません。またゾレドロネートは腎障害の発生が報告されており、腎障害の方、脱水状態の方には投与できません。採血による投与前の腎機能チェックはもちろん、投与後も定期的に採血を行い、腎障害の確認が必要となります。顎骨壊死は内服薬と同様に注意が必要です。投与前に大きな歯科治療を終わらせること、投与中は歯科医にビスホスホネート治療中であることを伝えること、口腔の衛生状態を良好に保つため定期的に歯科でチェックを受けてもらうこと、がとても重要です。ビスホスホネートの内服が難しい場合や胃腸障害がある場合に、注射薬は選択肢となりますので医師にご相談ください。

関節リウマチ・膠原病患者への「コロナワクチン」接種:現在の治療薬はどうする?

local_offerリウマチについて

関節リウマチ・膠原病患者に対するコロナワクチン接種について問い合わせを多数いただいております。先日引用した、日本リウマチ学会の声明のとおり、最終的には主治医とご相談の上で接種をご検討ください。

 

関節リウマチ、膠原病の患者様で現在、内服や注射による治療を行っている方はとても多いと思います。多くの薬剤は免疫を抑制する作用があります。接種を受けることが決まった患者様から一番多い問い合わせは「ワクチン接種の際、薬を休んだほうがいいですか?」です。

 

「ワクチン接種の際、薬を休んだほうがいいですか?」

(日本リウマチ学会からのお知らせどおり)現時点ではリツキサン以外は変更なしで継続、という方針です。個々の患者様で対応は異なりますので主治医とよく相談して決めましょう。

 

日本リウマチ学会の声明を引用いたします。(2021年2月20日更新)

「現時点でステロイドや免疫抑制剤がこのワクチンにあたえる影響はわかっていません。通常のワクチン接種の場合、免疫抑制剤やステロイドを中止・減量することはありません。よって基本的には接種前後で免疫抑制剤やステロイドは変更せず継続すべきと考えます。ただし、リツキシマブ(商品名リツキサン)で治療している場合には、注射時期との兼ね合いを考慮する必要があります。免疫抑制剤やステロイドの治療について具体的にどうするかについては、担当医とご相談ください。」

https://www.ryumachi-jp.com/information/medical/covid-19_2/

 

アメリカリウマチ学会(ACR)はより踏み込んだ形で推奨を出していますのでご紹介いたします。これはあくまでもアメリカのガイダンスであることから、日本人にそのまま当てはめて考えることはできません。また補足事項に記載されている通り、このガイダンスの科学的な根拠は低く、多くは専門家の意見をまとめた形で作成されています。よって、ここに書いてあることが科学的に正当であるかどうかはまだよくわかっていません。正確な内容を知りたい方は原文をご参照ください。

College of Rheumatology Guidance for COVID-19 Vaccination in Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases – Version 1. Arthritis Rheumatol 2021.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/art.41734

 

繰り返しになりますが、ワクチン接種される患者様の、現在の治療薬に関する指示は主治医とよく相談のうえでご検討ください。患者様の判断で勝手に休薬したりすることが無いようにくれぐれもご注意ください。

 

 

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COVID-19 Vaccine Clinical Guidance Summary for Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases(2021/5/24更新)より引用

表3:リウマチ・筋骨格系疾患患者へのCOVID-19ワクチン投与に関連したワクチンおよび免疫調整薬の使用とタイミングに関するガイダンス

(注:これはアメリカのガイダンスです。個々の患者様の主治医の判断にとって代わるものではありません。

絶対に自己判断で休薬しないでください。治療については主治医とよく相談してください。)

薬剤

使用とタイミング

専門家の意見一致レベル

ヒドロキシクロロキン;アプレミラスト;IVIG;ステロイド(プレドニゾン相当量<20mg/日)

免疫調整療法、ワクチン接種時期のいずれにも変更なし

強度から中等度

スルファサラジン、レフルノミド、アザチオプリン、シクロホスファミド(経口)、下記の生物製剤(TNF、IL-6R、IL-1、IL-17、IL-12/23、IL-23、ベリムマブ)、タクロリムス、シクロスポリン、ステロイド(プレドニゾン相当量≧20mg/日)

免疫調整療法、ワクチン接種時期のいずれにも変更なし

中等度

ミコフェノール

病気が安定していると仮定して、各ワクチン接種後1週間休薬する。

中等度

MTX

(2回接種ワクチン)

疾患が十分にコントロールされている場合、2回のmRNAワクチン接種後にMTXをそれぞれ1週間ずつ休薬する。ワクチン接種時期は変更しない

中等度

MTX

(1回接種ワクチン)

疾患が十分にコントロールされている場合、1回接種のCOVIDワクチン接種後、MTXを2週間保留する

中等度

JAK阻害薬

各ワクチン接種後に1週間休薬、ワクチン接種時期は変更なし

中等度

アバタセプト皮下注

ワクチンの初回接種の1週間前と1週間後にアバタセプト皮下注を休薬;2回目のワクチン接種前後は中断しない

中等度

アバタセプト点滴

1回目のワクチン接種をアバタセプトの点滴から4週間後に行い、その後のアバタセプトの点滴を1週間遅らせる(つまり合計5週間隔にする)。ワクチン投与のタイミングを調整し、2回目のワクチン接種では薬の調整は行わない。

中等度

IVCY

可能であれば、各ワクチン接種の約1週間後にCYCを投与する

中等度

リツキシマブ

患者のCOVID-19リスクが低い、または予防的な健康対策(例:自己隔離など)によって感染リスクを軽減できると仮定して、次回予定されているリツキシマブサイクルの約4週間前に一連のワクチン接種を開始するようにスケジュールを組みます。ワクチン接種後、疾患活動が許せば、最終ワクチン投与から2~4週間後にRTXを延期します。

中等度

アセタミノフェン、NSAIDS

病気が安定していると仮定して、ワクチン接種24時間前から休薬。

ワクチン接種後の症状改善のために使用する場合、制限なし。

中等度

 

(補足)ガイダンス・ステートメントの基礎となる原則、前提条件、考慮事項

AIIRD=自己免疫性・炎症性リウマチ性疾患 / RMD =リウマチ・筋骨格系疾患

・ACRのガイダンス・ステートメントは、リウマチ医療従事者の判断に取って代わるものではなく、また患者の価値観や考え方を覆すものでもありません。この指針は、弱い証拠や間接的な証拠に基づいており、実質的には専門家であるタスクフォースによる推定が必要でした。したがって、すべての記述は、条件付きまたは暫定的なものと考えてください。ACRは、新たな証拠が得られれば、このガイダンス文書を更新することを約束します。ACR guidance statements are not intended to supersede the judgement of rheumatology care providers nor override the values and perspectives of their patients. Guidance was based on weak and/or indirect evidence and required substantial extrapolation by an expert task force. All statements, therefore, should be considered conditional or provisional. The ACR is committed to updating this guidance document as new evidence emerges.

 

・ACRでは、ワクチン関連の効果を最大限に引き出すための重要な知識が不足しています。RMDの患者は、基礎疾患、重症度、治療法、多臓器不全の程度、専門医との関係などに大きな個人差があります。これらの点を考慮して、個々の患者に合った治療を行う必要があります。The rheumatology community lacks important knowledge on how to best maximize vaccine-related benefits. RMD patients exhibit high variability with respect to their underlying health condition, disease severity, treatments, degree of multimorbidity, and relationship with their specialist provider. These considerations must be considered when individualizing care.

 

・RMD 患者における mRNA COVID-19 ワクチンの安全性と有効性に関する直接的な証拠はありません。しかし、RMD患者において、ワクチンの有害性が、期待されるCOVID-19ワクチンの有益性を凌駕すると予想する根拠もありません。There is no direct evidence about mRNA COVID-19 vaccine safety and efficacy in RMD patients. Regardless, there is no reason to expect vaccine harms will trump expected COVID-19 vaccine benefits in RMD patients.

 

・今後のCOVIDの状況は、ワクチンの有効性と安全性、投与量、持続性、社会的行動の緩和、新たなウイルス株の変異など、不確実です。このように非常に不確実で急速に変化する状況にもかかわらず、臨床家は最善の判断で行動しなければなりません。The future COVID landscape is uncertain with respect to vaccine effectiveness and safety, uptake, durability, mitigating societal behavior, and emerging viral strain variants. Clinicians nevertheless must act with their best judgement despite this highly uncertain and rapidly changing landscape.

 

・ワクチン接種を延期してCOVID-19リスクを軽減できないリスクと、最適でない状況で接種した場合にワクチンに対する反応が鈍くなる可能性を比較検討する必要があります。実際問題として、この状況が一過性かどうかの不完全な予想と、科学的根拠が乏しい状況で、この問題を解決しなければなりません。The risk of deferring vaccination and thus failing to mitigate COVID-19 risk should be weighed against a possible blunted response to the vaccine if given under suboptimal circumstances. As a practical matter, this tension must be resolved in the context of imperfect prediction as to whether those circumstances may be transient, and a paucity of scientific evidence.

 

・ワクチンガイダンスを発行し、政策を決定する際には、限られたワクチン供給に関連する個人的および社会的な問題の両方を考慮する必要があります。このような状況下では、混乱を避け、実施状況を改善し、科学的信頼性を維持するため、(こうした提言や政策は)シンプルであることが重要です。Both individual and societal considerations related to a limited vaccine supply should be considered in issuing vaccine guidance and making policy decisions. Given that context, simplicity should be the touchstone: to avoid confusion, improve implementation, and maintain scientific credibility.

 

・将来的には、(もしも必要性や有益性が証明された場合に)追加のワクチンブースターを接種するかもしれませんが、その際は供給量による制約はなくなっていることでしょう。どのような予防接種戦略も最初は合理的な出発点から始まり、実施の詳細な決定は、限られたワクチン資源の配分のために行われます。In the future, the ability to give an additional vaccine booster (if proven necessary or beneficial) will no longer be constrained by limited supplies. Any vaccination strategy is a reasonable starting point, and decisions about implementation details reduce to allocation of scarce vaccine resources.

 

Curtis JR, Johnson SR, Anthony DD, Arasaratnam RJ, Baden LR, Bass AR, et al. American College of Rheumatology Guidance for COVID-19 Vaccination in Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases – Version 1. Arthritis Rheumatol 2021.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/art.41734

 

骨粗しょう症の治療をやめてしまった人へ

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治療のモチベーション

こんな方がいらっしゃいました。65歳の女性でやせ型です。「私は酒もタバコもやりませんし、少しやせていると思いますが、よく歩くほうだし、乳製品も小魚もよく食べます。まさかこんなに骨密度が低いとは思いませんでした。」と言って示された数値は対若年者比(YAM)70%でした。70%は「薬物」治療の対象です。女性の言う通り、生活面はかなり気を遣っているのですが、よくお話を聞くとお母様が大腿骨の骨折歴があるそうです。また閉経が40歳代で少し早かった、ということです。このような場合、やはりリスクが高いですので、生活面をこれ以上改善させてもなかなか自力で骨密度を上げていくのは難しいと考えるべきでしょう。患者様には現状と今後起こりうる骨折の危険性を説明して、薬物治療を提案しました。健康そのものという感じであまり薬を飲んだこともない、という方でしたので薬物治療については抵抗感がありましたが、最終的には合意してくださいました。6か月後、骨密度を測定しましたが、全く良くならず、むしろやや低下していました。どうしたことかと伺ってみますと、薬をしっかりと飲んでなかったということがわかりました。服薬率が低く、治療がうまくいってなかったのです。

このケースの場合、治療に対するモチベーションが上がらなかった、ということが一番の問題点でした。骨粗鬆症は骨折が起こらない限り、無症状です。人間だれしも、無症状だとなかなか治療の「やる気」が出てこないものです。この女性の心理状態も十分に理解可能です。

治療の「やる気」が起きない原因

 治療に対する意欲が起きないとなかなか服薬に結びつかず、飲み忘れや中断、ということになりやすくなります。骨粗鬆症の治療をはじめて1年後、処方通りに飲めていない患者が30~50%という報告もあります。服薬が続かない要因、治療のモチベーションが下がる要因はいくつか指摘されています。

 ・治療への理解が乏しい(治療しなくても何とかなるのではないか)

 ・費用(他の薬を複数内服している、骨粗鬆症の薬は後回しでいいかな)

 ・薬物への不信感

ビスホスホネート製剤(代表的な骨粗鬆症治療薬、後述)に特徴的な要因

 ・胃腸障害(薬を飲んだ後気持ち悪くなる。)

 ・服薬方法が面倒(起床時、コップ1杯の水とともに、内服後横にならない)

 

治療の「やる気」を上げるため

 治療のやる気を上げる要因もいくつか指摘されています。

  ・定期的な骨密度、骨代謝マーカーの測定

  ・医療者からの積極的な働きかけ、声掛け

  ・定期的な運動習慣

  ・家族に骨粗鬆症がいる

  ・骨折している・すでに骨折していた

  ・早期閉経、ステロイド服用者などでリスクを理解している人

  ・内服から注射へ変更

 漫然と治療するのではなく、定期的に骨密度や血液検査を行って、治療の目標に近づいているのか、治療でよくなっているのか確認することは大事なことです。患者様に骨粗鬆症を理解してもらうこと、治療の必要性をわかってもらうことも大事ですので、私たちも継続的に治療の必要性をお話ししたいと思います。

患者様からも治療で生じる様々な疑問や問題はできるだけ私たちへお話しいただければと思います。例えば、内服が面倒だとか、飲んだ後気持ち悪い、などについては注射のお薬に変更することで解決することもあります。治療を中断したり、忘れたりすることはよくあることです。原因がどこにあるのか検討して、できるだけ継続できるような治療をご提案いたします。

骨粗しょう症(3)(骨粗しょう症・骨量減少と言われたら)

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薬物治療をすぐにはじめるべきですか?

 骨量減少が確認されたとき、全員がすぐに薬物治療を始めるわけではありません。軽い骨量減少であれば生活指導で経過をみることもできます。薬物を開始するかどうかの基準は「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」に記載されています。

  ・大腿骨の股関節に近い部分や背骨の骨折がすでにある場合

  ・骨密度検査で対若年者比(YAM)70%未満

これらの場合、薬物治療の対象になります。また、

  ・骨密度検査で対若年者比(YAM)70から80%未満

この場合、脆弱性骨折の有無やリスク因子、家族歴などを聴取して薬物治療を開始するかどうか判定します。これらの基準は、関節リウマチ患者、ステロイド使用者、続発性骨粗鬆症患者(糖尿病や慢性腎不全なども含む)の場合には当てはまりませんので注意が必要です。

 関節リウマチ患者様やステロイドを服用している患者様の場合、健常者に比べて骨折リスクが高いことが知られています。このような患者様の場合、閉経前の女性であっても、基本的に全員に骨密度測定をお勧めし、必要に応じて、薬物治療をご提案いたします。

 

血液検査(骨代謝マーカー)のチェックも受けましょう

 骨密度測定検査(DXA)は骨粗しょう症の診断・治療の中心的な検査になります。他に、血液検査で骨粗鬆症の状態を判定することが可能です。現在保険で認められている骨代謝マーカーはいくつかありますが、大きく分けて3種類あります。

  ・骨吸収マーカー:TRACP-5b、NTXなど

  ・骨形成マーカー:P1NP、BAP

  ・骨マトリックス関連マーカー:ucOC

骨粗鬆症の早期の段階で骨吸収マーカーが高値の場合、骨吸収が亢進している可能性があり、骨吸収抑制薬の投与を決断する根拠となります。骨形成を促進するテリパラチド・ロモソズマブなどを使用しているときに、骨形成マーカーを測定することで治療効果を判定することが可能となります。骨マトリックス関連マーカーはビタミンK不足の有無の判断に活用できます。

これらのマーカーは頻回に測定することはできません。治療開始前に骨吸収マーカーと形成マーカーを測定し、骨粗鬆症の病態を確認することが多いです。治療開始後は治療効果判定のために吸収や形成マーカーを数か月の間隔をあけて再度測定することがあります。

 

薬物以外の生活指導

 骨粗鬆症の治療薬は種類も多く、近年は効果の高い薬剤も臨床で用いられるようになりました。骨粗鬆症の薬物治療は進歩していますが、すべての薬物治療の前提条件として、生活指導はかかせません。ここでは代表的かつ重要とされている(1)食事、(2)運動について説明いたします。

 

食事

・カルシウム

カルシウムの摂取は予防、治療に必要不可欠です。(必要条件ですが、十分条件ではありません。)また、カルシウムだけ過剰に摂取しても腸から吸収されるカルシウム量には限界があり、ビタミンDを摂取しないと吸収が上手くいかないこともわかっています。カルシウムだけでなく、必要な栄養素をバランスよくとることが重要です。骨粗鬆症治療では1日700から800mgのカルシウム摂取およびビタミンDの摂取が推奨されています。ビタミンDは1日15分程度の日照暴露があるとさらに良いとされます。(真っ黒に日焼けする必要はありません。)。

カルシウムは乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆製品などに多く含まれています。カルシウムサプリメントについてはよく問い合わせを受けます。ご年配の方が急激に大量のカルシウムとビタミンDを摂取し血中のカルシウムが急上昇することで健康被害が出るケースも考えられます。1回に服用する量が500㎎を超えないこと、通院中であれば定期的に血中のカルシウムやリンの濃度を測定すること、カルシウム濃度が高い場合は中止する、などの対策が考えられます。通院中の方はまず主治医にご相談していただくといいと思われます。

・ビタミンD

ビタミンDはカルシウムの吸収に重要です。ビタミンDは高齢者で不足状態になっていることがしばしば指摘されています。魚類、キノコ類に多く含まれており、これらをしっかりと摂取することが重要です。

・ビタミンK

ビタミンKも骨密度の維持に重要なビタミンです。納豆や緑色野菜に多く含まれています。もしもこれらの摂取が少ないことが予想される場合、または、血中ucOCを測定して高値の場合は、ビタミンKの多い食品の摂取をすすめます。(ワーファリンを内服中の方はビタミンKの過剰摂取はできませんのでご注意ください。)

 

運動

 これまで閉経後の女性を対象とした複数の研究がなされており、ウォーキング、有酸素運動(自転車、水泳など)、下肢の荷重運動・筋力トレーニングは大腿骨(太ももの骨)や腰椎(腰の背骨)の骨密度維持・上昇に有効であることが示されています(Howe TE et al. Exercise for preventing and treating osteoporosis in postmenopausal women.; Cochrane Database Syst Rev. 2011; 6; 7)。「骨粗鬆症対策に運動がよい」というのは科学的にしっかりと証明されており、生活指導の中でも最も重視するべきポイントと言えます。

運動というとジムの筋トレを思いつく人がいますが、いきなり負荷の強い運動を行うことはかえって逆効果です。まずは歩行から始めましょう。閉経後の女性(平均年齢65歳)を対象とした研究では、1日8,000歩、週4日以上を1年間継続すると骨密度が上昇したそうです(Yamazaki S et al. J Bone Miner Metab. 2004;22(5):500)。1日8000歩は今まで歩いていない人にとってはハードルが高いと思います。いきなりこのレベルで歩くのは難しいと思いますので、徐々に歩く距離を増やしていけばいいと思います。また、心臓や肺の疾患がある場合も主治医によく相談したうえで運動の強さを考えていただければと思います。

関節リウマチや膝の変形性関節症などがあって、思い通りに歩けないケースもあると思います。自転車や水泳は一般的に膝の状態がよくない人でも取り入れることが可能です。また、家庭でもゆっくりとしたスクワット運動(反動をつけないでください。)は筋力維持・転倒防止に有用です。できることから少しずつ生活に取り入れていきましょう。関節の病気をお持ちの場合は主治医とよく相談して、運動療法を生活に取り入れていただければと思います。

骨粗しょう症(2)(ロコモ、リスク因子、検査、予防について)

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ロコモティブシンドロームと骨粗鬆症
 「ロコモティブシンドローム」という言葉をご存じでしょうか?運動器障害を包括的にとらえた概念であり、2007年に日本整形外科学会で提唱されました。「ロコモ」と略すこともあります。テレビなどで盛んに取り上げられていた時期もありましたし、現在も耳にすることがあるかもしれません。「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義されております。移動機能とは立ち座り、歩行、階段昇降など、身体の移動に関する機能のことです。運動器の障害は主に加齢に伴う機能低下と運動器疾患を指しますので、「ロコモ」は多く場合、高齢者の問題になります。日本は高齢化社会を迎えており、今後、高齢者はますます増えていくことから、「ロコモ」の問題を抱える人も増加していくことが予想されています。
 中高年に多い運動器疾患は「変形性関節症」「脊椎症(脊柱管狭窄症)」「骨粗鬆症とそれに伴う脆弱性骨折」です。
 2013年の要介護・要支援患者の原因疾患の内訳は脳血管疾患21.5%、認知症15.3%、高齢に伴う衰弱13.7%、転倒・骨折11.8%、関節疾患10.9%であり、最後の2つを「運動器疾患」とすれば、原因の1位となります。転倒・骨折の頻度を減らすことができれば、要介護・要支援となる高齢者を減らすことが可能です。「ロコモ」が増える要因として「骨粗鬆症」とそれに伴う「骨折」は重要です。転倒して骨折すれば長期の入院、リハビリが必要となり、元の状態に戻るまでに長期間を要しますし、リハビリができなければ寝たきりとなります。骨粗鬆症の対策・治療をしっかり行うことでロコモを減らせる可能性があります。また、リハビリや筋力向上のトレーニングなどのロコモを減らす取り組みが結果的に骨粗鬆症を減らす可能性もあり、骨粗鬆症とロコモは原因と結果が相互に結びついていると考えられます。いずれにしましても、骨粗鬆症を放置して骨折にいたることはご本人にとっても社会にとってもマイナスであり、しっかりとした対策考えていくことが重要と考えられます。

 

脆弱性骨折の臨床的危険因子(骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインより)
 骨粗鬆症を起こしやすい危険因子がいくつか指摘されています。上述の通り、「閉経後の女性」は骨粗鬆症に注意しなければなりませんが、それ以外にも、「やせ型」「脆弱性骨折の既往あり」「両親が大腿骨近位部骨折歴あり」「タバコ」「ステロイド内服治療」「関節リウマチ」「アルコール多飲」などに当てはまる場合には注意が必要です。
他にも、「糖尿病」「長期未治療のバセドウ病」「早期閉経」「慢性肝疾患」「栄養失調や吸収不良」などが続発性骨粗鬆の原因とされています。ここに挙げたリスク因子を一つあるいは複数お持ちの方は骨粗鬆症検査を受けられることをお勧めいたします。

 

Dual-energy X-ray Absorptiometry(DXA)検査について
 骨粗鬆症の診断にはDual-energy X-ray Absorptiometry(DXA)を用いて、腰椎と大腿骨の骨密度測定を行う必要があります。65歳以上の女性、上述の危険因子をもつ閉経後から65歳未満の女性については、骨密度測定が推奨されます。また、男性の場合、70歳以上や、危険因子を有する50歳から70歳未満について骨密度測定は有用とされています。上述の疾患、関節リウマチ、ステロイド治療歴がある成人はすべて骨密度測定の対象となります。
 骨密度測定によって骨密度が低いと判定された場合、新規に骨折を発生する確率が高くなることがこれまでの様々な検討で明らかとされています。(低骨密度と新規骨折は高いレベルで相関します。)骨密度がYAMで10-12%低下すると、骨折リスクは1.5から2.6倍に上昇する、という研究もあります。
 DXA検査は腰椎と大腿骨の2か所の骨密度検査を測定します。妊娠中の方には施行できません。おへそから太ももにかけての検査になりますので、ズボンのファスナーや金属のボタンなどがあると検査に支障があります。必要に応じて、検査用のショートパンツにはきかえていただきます。検査台にあおむけで横になっていただき、2か所を測定します。測定時間はそれぞれ30秒程度で、痛みはありません。準備の時間を加えてもだいたい10分程度で検査は完了します。
 DXAは骨粗鬆症の診断や治療効果判定に有用です。当院では最新のDXAを備えてガイドラインで推奨されている腰椎と大腿骨の検査を行うことができます。骨粗鬆症が心配の方、治療に興味があるかた、上述のリスク因子をお持ちのかたは、病院レベルの骨粗鬆症の検査をいつでも行うことが可能ですので、お気軽にご相談ください。ご予約は不要です。

 

骨粗鬆症の予防(骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインより)

 中高年向けに骨粗鬆症の予防として推奨されているものを列挙します。このうち、エビデンスレベル、推奨グレードともに一番高いのは「運動(日常的な歩行運動)」でした。

  • 運動(推奨グレードB エビデンスレベルI): 歩行を中心とした日常的な軽い運動が骨密度の上昇に有効です。ジョギングやダンスなどの強い運動負荷は大腿骨の骨密度上昇に有効のデータもありますが、きちんとした管理下という条件付きであり、いきなり強い運動をするのではなく、まずは日常的な歩行を生活に取り入れましょう。
  • 体重管理(やせすぎない):やせると骨折リスクが上昇。適正体重の維持、やせの防止を。
  • 禁煙・節酒:喫煙は骨折リスクを上昇させます。飲酒はエタノール量で24g/日未満が推奨されています(ビール500ml1本で20gです。ワイン200mlくらい)。
  • 栄養: カルシウムやビタミンDを多く含む食品を摂取することは重要と考えられますが、骨密度を上昇させるという証拠(エビデンス)は残念ながら少ないです。ビタミンDは1日15分程度の日照暴露があるとさらに良好とされます。

近年よく指摘されていますが、女性の過度のダイエット志向、過剰な紫外線対策、運動不足などは将来の骨の健康を考えますとあまりいい状態とは言えません。これらに当てはまりそうな方は骨の健康についても意識していただき、早めに骨密度検査を受けることも検討されるといいと思います。

骨粗しょう症の基本(疫学・メカニズム・予後)

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定義

骨量が減少し、骨の組織構造に異常が生じ、骨が脆弱な状態となって、「骨折」の危険性(リスク)が増大した状態です。骨粗鬆症は「疾患」であり、骨折は結果的に生じた合併症、とみることができます。骨粗鬆症自体は痛みがありませんので、自覚がないままに「疾患」が進行し、ある日突然、「骨折」に至ります。静かに病気が進行する、という点が特徴でありかつ問題点であると言えます。

疫学
近年の大規模住民検査の報告によりますと、40歳以上の一般人のうち、骨粗鬆症の基準を満たした人は、腰椎で男性3.4%・女性19.2%、大腿骨頸部は男性12.4%・女性26.5%でした。これを年齢別人口に当てはめて推計しますと、日本の男性で300万人、女性で980万人が骨粗鬆症である可能性があります。日本人の10人に1人は骨粗鬆症である、という推計であり、かなり多くの人々が骨折のリスクを抱えていることになります。10人に1人、約10%と申し上げましたが、年代別、性別で考えることも重要です。特に女性の場合、60歳以降に骨粗鬆症が急増し、60歳代で20%台、70歳代で40%、80歳以降で60%程度が骨粗鬆症(大腿骨頸部)と推計されています。近年は健診で骨密度測定を測定することもできるようになりましたが、いまだ未診断の状況にある骨粗鬆症の患者様も多くいらっしゃることが予想されます。50歳代以降、閉経後の女性に骨密度検査を強く勧めるのはこのような疫学調査があるためです。

骨粗鬆症のメカニズムとは?
骨には骨の形成・維持に重要な細胞が2種類存在します。一つは「破骨細胞」であり、もう一つは「骨芽細胞」です。「破骨細胞」は骨の「吸収」を担当し、「骨芽細胞」は骨の「形成」を担当します。骨は一見すると何も動いていないように見えますが、古い骨は「吸収」されて、新しい骨が「形成」されます(骨のリモデリングと言います。)。私たちの骨は常にこの「吸収」と「形成」のサイクル繰り返しており通常状態ではこれらが平衡しているため、骨量は不変です。骨粗鬆症の要因の一つと「吸収」と「形成」のアンバランスが考えられています。「吸収」が上回って「形成」が間に合わなければ骨量は減少します。例えば、閉経によるエストロゲン欠乏、副甲状腺ホルモン異常などにより「骨吸収」が亢進すると、「骨形成」が間に合わない状況となり骨粗鬆症となります。カルシウムやビタミンD欠乏が続けば、「骨形成」に影響が生じます。膠原病・自己免疫疾患などの治療で用いる「ステロイド」は長期に使用する場合に骨粗鬆症の原因となりますが、これも「骨吸収」と「骨形成」のアンバランスによる影響が考えられています。
 骨リモデリング以外の要因として、「酸化ストレス」やビタミンK、ビタミンD不足による骨基質の劣化と骨質の低下も指摘されています。「酸化ストレス」の要因としては生活習慣病・加齢・閉経・血中ホモシステインの増大などが挙げられています。生活習慣病の管理というと一般的には動脈硬化などに伴う脳卒中や心筋梗塞の予防、というイメージが強いですが、骨粗鬆症にも影響をおよぼしますので注意が必要です。

骨粗鬆症の予後(治療しないとどうなる?)
 骨粗鬆症を治療しないとどうなるのか、という質問をうけることがあります。まず、骨粗鬆症の自然経過について、理解する必要があると思います。人間の骨量は生まれてから徐々に増大し20歳代で最大骨量になります。男性も女性も50歳代までは高い骨密度を維持しますが、女性は閉経を迎えると女性ホルモン(エストロゲン)が枯渇し、10年間で骨量は著しく低下します。男性も低下しますが、女性に比べると緩徐です。そもそも、自然に低下するものを無理やり治療するなんて、自然の摂理に反する、とお考えの方もいるかもしれません。人間の平均寿命が50歳程度の時代であれば、骨粗鬆症は大きな問題にならなかったのかもしれません。現在の日本の平均寿命(女性)は80歳代後半に達しており、100歳以上の方も多くなっています。女性の場合、平均寿命まで生きると仮定して、閉経後に少なくとも30年以上、元気に過ごしていただく必要があります。

 もしも骨粗鬆症を治療しない場合、骨折の危険性が増します。脆弱性骨折の中でも、「大腿骨近位部骨折」(太ももの一番太い骨の股関節に近い部分の骨折)は歩行ができないばかりか、通常は入院、手術を要し、リハビリが長期にわたって必要となります。リハビリで元通りに回復すればいいですが、元の状態に戻ることが難しく、車いす生活や寝たきり生活になってしまうケースもあります。一回骨折すれば、たくさんの時間とお金が無くなり、場合によっては移動する自由を失ってしまいます。これは個人ばかりでなく、家族・社会にとっても大きな損失です。いくつかの研究で「大腿骨近位部骨折」は死亡率を上昇させて生命予後に直結する、ということも示されています。ある研究では12年間の追跡で、大腿骨近位部の骨密度が低い群は高い群にくらべてハザード比2.58で死亡率が上昇しました(Suzukiら/Osteoporos Int. 2010 ;21:71-9)。これは年齢や体重、コレステロールや糖尿病などのいくつかのリスク要因の調整後の数値であり、骨密度が低い状態は死亡率と密接的に関連していると考えられます。せっかく高齢化社会を迎えたのに、多くの女性が骨折し、生活の質が低下するという事態は避けなければなりません。生活の質を保ち、元気に長生きするために、骨粗鬆症に対するケアは重要と考えられます。

強直性脊椎炎について

local_offerリウマチについて

強直性脊椎炎は20歳台から30歳台の比較的若い世代で発症する難治性の脊椎(背骨)の病気です。朝に強く、運動で改善する腰痛症状で発症し、慢性的に病気が進行して脊椎(背骨)の変形、癒合などが起こります。20年から30年の経過で背骨が曲がらなくなり(強直状態)、背骨の前屈や回旋する動作が難しくなります。かつては痛み止めと運動、くらいしか治療法が存在しませんでしたが、関節リウマチ治療に変革をもたらした生物製剤、特に抗TNFα阻害薬が、この疾患にも良く効くことがわかり、治療の環境は大きく変化しています。国が指定する特定難病疾患に該当します。

 

疫学

2018年に行われた全国疫学調査の結果、患者数は3200人程度と推計されました。欧米では多い疾患ですが、日本では比較的まれな病気と言えます。海外ではHLA-B27という遺伝子が病気に関連すると言われておりますが、日本ではこのHLA-B27を持つ人の割合が極端に低いため、この影響で、発症率も低いことが予想されます。リウマチ疾患は女性に多いイメージがありますが、この病気は3:1の割合で男性に多く、ほとんどが40歳以下で発症します。HLA-B27遺伝子以外の原因についてはよくわかっておりません。

 

診断

 前述の通り、若い世代で発症する、運動で改善する腰痛症状が診断のポイントになります。診断にはニューヨーク診断基準を用います。

 

改訂ニューヨーク診断基準

Ⅰ.臨床症状

1腰背部の疼痛、こわばり(3カ月以上持続、運動により改善し、安静により改善しない)

2腰椎の可動域制限(前後屈および側屈)

3胸郭の拡張制限

 

Ⅱ.仙腸関節のX線所見両側2度以上、または片側3度以上の仙腸関節炎所見

0度:正常

1度:疑い(骨縁の不鮮明化)

2度:軽度(小さな限局性の骨のびらん、硬化。関節裂隙は正常)

3度:明らかな変化(骨びらん、硬化の進展と関節裂隙の拡大、狭小化または部分的な強直)

4度:関節裂隙全体の強直

 

Ⅲ.診断基準

1確実:臨床症状の1、2、3のうち1項目以上 + X線所見

2疑い: a)臨床症状3項目 b)臨床症状なし+X 線所見(仙腸関節)

 

この診断基準はX線基準が含まれており、発症から間もない、早期症例の診断にはあまり有用ではない、という問題点があります。強直性脊椎炎の発症から診断まで平均9年程度という統計も報告されており、診断まで長い期間を要することが課題となっています。

近年は「体軸性脊椎関節炎」という新しい疾患概念が生まれ、この分類では多くの強直性脊椎炎が含まれると同時に、X線基準を満たさない、(おそらく早期の、)これまで強直性脊椎炎と分類されなかった症例も含まれることになりました。この体軸性脊椎関節炎であり、強直性脊椎炎ではない症例を「X線基準をみたさない体軸性脊椎関節炎」と分類し、より早期に診断し、早期に治療介入しよう、という動きがあります。関節リウマチでは生物製剤の登場によって、分類基準が早期疾患に対応するように変化しました。強直性脊椎炎においてもこのような動きが起こってきたと言えます。(ただし、国の指定難病の申請にはこの脊椎関節炎の分類は用いることができず、上述のニューヨーク基準を用いますので、注意が必要です。)

 

診断において近年は仙腸関節MRI検査(造影剤使用)の有用性が増しています。レントゲンで炎症の存在がはっきりとしない症例でもMRI検査では鋭敏に炎症の存在をとらえることが可能です。私もMRI検査によって診断することができた、脊椎関節炎の症例を経験したことがあります。若い世代の難治性腰痛を見たらこの病気を疑いますが、X線でわからない場合はMRI検査が有用なことがあります。上述の通り、この病気も早期発見、早期治療の時代になりつつありますので、閉所恐怖症や、体内金属の有無、腎障害、喘息症状の有無などを確認したうえでMRIを勧めさせていただきたいと思います。

 

臨床評価の指標

強直性脊椎炎は客観的に病気の状態を把握するのが他疾患に比べて難しく、治療の強さを決めることが難しいこともよく経験されます。なんとなく治療するのではなく、目標をもって治療することが重要であり、疾患の活動性や機能障害を定量化するための指標が各種開発されています。活動性・疼痛の評価として、患者のVisual Analogue Scale (VAS)によるBASDAI(Bath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index)、患者VASに採血項目のCRP(またはESR)を組み合わせたASDAS (Ankylosing Spondylitis Disease Activity Score)などがよく使われています。ADLなど機能評価項目として患者VASをによるBASFI(Bath Ankylosing Spondylitis Functional Index)があります。新しい総合的健康指標として、The Assessment of SpondyloArthritis international Society (ASAS)によるHealth Index (ASAS HI)が公開されており、これらの指標をくみあわせて、患者様の現在の状態を把握することが重要です。

 

治療

関節リウマチと同様、根治を目指した治療法はまだ存在しません。しかし、生物製剤の登場によって治療薬と呼べるものがようやく出てきました。これまではいわゆる痛み止め(NSAIDS)が主体であり、適度な運動療法を組み合わせて経過をみていました。NSAIDSだけでかなり病状が落ち着く人もいます。関節リウマチに用いるサラゾスルファピリジンやメトトレキサートの有効性は証明されていませんが、末梢性関節症状には有効な患者が一部存在します。疼痛が強い人、生活の質が低下している人、眼の炎症性疾患を合併している人、慢性的な持続性炎症状態がある人には生物製剤の使用をお勧めできます。生物製剤は感染症のリスクを上昇させますので、投与が難しいケースもあります。しっかりとスクリーニング検査を行った後で治療を行うことが重要です。強直性脊椎炎に使用可能な生物製剤は、関節リウマチやクローン病などでよく用いられているTNFα阻害薬、乾癬などでよく使用されているIL-17阻害薬などがあり、患者様の状態にあわせて適切な薬剤を選択、使用します。

花粉症の治療:新しい抗アレルギー薬(第二世代抗ヒスタミン薬)について

local_offer花粉症・アレルギーについて

3月、4月は花粉症の人にとってはとてもつらい季節ですね。花粉症は季節型のアレルギー性鼻炎が病気の主体であり、目の症状や皮膚症状を伴うこともあります。原因としてスギ花粉が最も頻度が高いですが、ヒノキやシラカバなどの花粉症もあります。かつては成人の病気でしたが、最近は低年齢化が進み、小学生の花粉症も珍しくありません。

花粉症治療において最も汎用されているのが「第二世代抗ヒスタミン薬」です。抗ヒスタミン薬は作用が比較的速やかであり、くしゃみや鼻汁によく効きます。鼻閉はやや苦手とされています。第一世代は催眠作用(強い眠気を引き起こす)が強く、抗コリン作用と言って口渇・便秘などの作用が強く出る場合もあるため、一般的に、花粉症の治療には用いません。第一世代抗ヒスタミン薬は一部の風邪薬に含まれています。

患者様の重症度やライフスタイルに合わせて、抗ヒスタミン薬だけではなく、点眼薬(抗アレルギー薬やステロイド)や点鼻薬(ステロイド)を適宜組み合わせて治療することが多くなっています。

第二世代抗ヒスタミン薬はアレジオン®、エバステル®、ジルテック®、タリオン®、アレグラ®、アレロック®、クラリチン®、ザイザル®、ディレグラ®、デザレックス®、ビラノア®、ルパフィン®、アレサガテープ®、など多数あります。最近はOTC薬と言って、処方箋なしでも薬局で購入できるものも増えてきています(アレグラ®、アレジオン®、ジルテック®、エバステル®、クラリチン®など)。

第二世代抗ヒスタミン薬のうち、上記のザイザル®よりも後ろの薬剤は2010年以降の発売であり、比較的新しい抗ヒスタミン薬と言えます。注意していただきたいのは、新しいからすべて良い、という意味ではなく、それぞれの薬剤に特徴があり、効果も微妙に異なります。古いタイプのほうが使い慣れていて飲みやすい、という患者様もたくさんおりますので、積極的に新しい薬剤を推奨する、という意味ではございません。ここではこの比較的新しいタイプの抗ヒスタミン薬を紹介します。もしも今服用している抗ヒスタミン薬やOTC薬の効果があまり十分でない場合には、これら新しいタイプを選んでいただくのも選択肢に挙がると思いますので、ご相談をいただけたらと思います。

 

・ザイザル®(レボセチリジン、2010年発売)

1日1回内服。ジルテック®(セチリジン)の光学異性体であり、海外の臨床試験ではセチリジンの半量で同等の抗アレルギー効果が得られることが示されています。また、効果の持続時間が長い、という特徴もあります。血液―脳関門の通過性が低く、中枢への影響は少ないとされています。(眠気が完全にない、というわけではありませんので注意は必要です。)

 

・ディレグラ®(フェキソフェナジン・プソイドエフェドリン、 2013年発売)

 すでに発売されOTC薬になっているアレグラ®に、血管収縮作用を有するα交感神経刺激薬(塩酸プソイドエフェドリン)を配合した薬剤です。プソイドエフェドリン(pseudoと書いてあるとシュード、と読みたくなりますがプソイドです)は鼻閉に対する効果を増強する作用があり、特に鼻閉が強い患者様におすすめしやすい薬剤です。交感神経を刺激する作用があるため、糖尿病、高血圧や緑内障、前立腺肥大、甲状腺機能亢進の患者様には慎重投与になります。また腎排泄型のため腎障害のある方にも注意が必要です。1日2回内服する薬剤ですが、食事と一緒に飲むと吸収が悪く、食後ではなく、起床時、夕方の空腹時に飲むのが最適とされています。鼻づまり症状が軽くなってきた場合、ほかの抗ヒスタミン薬に切り替える場合もあります。

 

・デザレックス®(デスロラタジン、2016年発売)

 こちらもすでにOTC薬となっているクラリチン®(ロラタジン)の代謝活性物質です。クラリチンと同じく、1日1回の内服薬です。ロラタジンは肝臓で代謝されてデスロラタジンになり、効果を発現する薬剤です。デザレックス®ははじめから効果を発現しやすいかたちになっていることから、効果がすみやかに発現する、という特徴があります。

 

・ビラノア®(ビラスチン、2016年発売)

 ビラスチンは、1日1回空腹時投与の内服薬です。効果発現の速さを売りにしています。24時間持続する非鎮静性の抗ヒスタミン薬です。眠気が少ない、という特徴があるため添付文章に運転に関する注意の記述が省かれています(ビラノア®の他に、アレグラ®、ディレグラ®、クラリチン®、デザレックス®も注意喚起の文章は省かれています。眠気が起こらないという完全な保証とはなりませんので注意を忘れないでください。)ビラノアは食事の影響で吸収が低下する薬剤とされています。試験では食後複葉で半分近く吸収が下がっています。「食事の1時間以上前、もしくは2時間以上経ってから」飲むことが推奨されています。「1日1回、寝る前」と処方されることが多いと思いますが、夕食後にすぐ寝る方はこの服用方法はおすすめできません。「起床時の空腹時」ということも考えられますが、これも起きてからすぐに朝食、という方にはおすすめできませんので、寝る前も起床時もだめ、という場合には食間の内服になります。

 

・ルパフィン®(ルパタジン、2017年発売)

 ルパタジンは1日1回の内服薬です。抗ヒスタミン作用と抗PAF(platelet activating factor:血小板活性化因子)作用を併せ持つ特徴があります。PAFはヒスタミンと一緒になって、血管拡張や血管透過性の亢進、知覚神経刺激、白血球の活性化などを誘導することで、くしゃみや鼻水、鼻閉などの症状を引き起こすことがわかっています。ルパフィンは抗PAF作用という新しい作用を含むことで、強力な抗アレルギー作用を発揮するとされています。比較的眠気の副作用が多いことから運転などには注意が必要になります。

 

・アレサガテープ®(エメダスチン、2018年発売)

 これまでの内服薬と違って、経皮吸収型のテープ剤となっています。1日1回1枚ずつ張り替えて使います。皮膚から有効成分が吸収されますので、24時間、安定した効果が発揮されます。何らかの理由で内服薬が困難な人にも使用できます。1日1回タイプの薬剤だとどうしても薬剤が切れる時間帯があり、鼻炎症状に波があるような人にも試す価値があるかもしれません。当然ながら、食事の影響も受けないので、毎日同じ時刻に張り替えていれば安定した作用が期待されます。内服薬ではないタイプも試してみたい方はご相談ください。

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