リウマチについて

関節リウマチ・膠原病患者への「コロナワクチン」接種:現在の治療薬はどうする?

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関節リウマチ・膠原病患者に対するコロナワクチン接種について問い合わせを多数いただいております。先日引用した、日本リウマチ学会の声明のとおり、最終的には主治医とご相談の上で接種をご検討ください。

 

関節リウマチ、膠原病の患者様で現在、内服や注射による治療を行っている方はとても多いと思います。多くの薬剤は免疫を抑制する作用があります。接種を受けることが決まった患者様から一番多い問い合わせは「ワクチン接種の際、薬を休んだほうがいいですか?」です。

 

「ワクチン接種の際、薬を休んだほうがいいですか?」

(日本リウマチ学会からのお知らせどおり)現時点ではリツキサン以外は変更なしで継続、という方針です。個々の患者様で対応は異なりますので主治医とよく相談して決めましょう。

 

日本リウマチ学会の声明を引用いたします。(2021年2月20日更新)

「現時点でステロイドや免疫抑制剤がこのワクチンにあたえる影響はわかっていません。通常のワクチン接種の場合、免疫抑制剤やステロイドを中止・減量することはありません。よって基本的には接種前後で免疫抑制剤やステロイドは変更せず継続すべきと考えます。ただし、リツキシマブ(商品名リツキサン)で治療している場合には、注射時期との兼ね合いを考慮する必要があります。免疫抑制剤やステロイドの治療について具体的にどうするかについては、担当医とご相談ください。」

https://www.ryumachi-jp.com/information/medical/covid-19_2/

 

アメリカリウマチ学会(ACR)はより踏み込んだ形で推奨を出していますのでご紹介いたします。これはあくまでもアメリカのガイダンスであることから、日本人にそのまま当てはめて考えることはできません。また補足事項に記載されている通り、このガイダンスの科学的な根拠は低く、多くは専門家の意見をまとめた形で作成されています。よって、ここに書いてあることが科学的に正当であるかどうかはまだよくわかっていません。正確な内容を知りたい方は原文をご参照ください。

College of Rheumatology Guidance for COVID-19 Vaccination in Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases – Version 1. Arthritis Rheumatol 2021.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/art.41734

 

繰り返しになりますが、ワクチン接種される患者様の、現在の治療薬に関する指示は主治医とよく相談のうえでご検討ください。患者様の判断で勝手に休薬したりすることが無いようにくれぐれもご注意ください。

 

 

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COVID-19 Vaccine Clinical Guidance Summary for Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases(2021/5/24更新)より引用

表3:リウマチ・筋骨格系疾患患者へのCOVID-19ワクチン投与に関連したワクチンおよび免疫調整薬の使用とタイミングに関するガイダンス

(注:これはアメリカのガイダンスです。個々の患者様の主治医の判断にとって代わるものではありません。

絶対に自己判断で休薬しないでください。治療については主治医とよく相談してください。)

薬剤

使用とタイミング

専門家の意見一致レベル

ヒドロキシクロロキン;アプレミラスト;IVIG;ステロイド(プレドニゾン相当量<20mg/日)

免疫調整療法、ワクチン接種時期のいずれにも変更なし

強度から中等度

スルファサラジン、レフルノミド、アザチオプリン、シクロホスファミド(経口)、下記の生物製剤(TNF、IL-6R、IL-1、IL-17、IL-12/23、IL-23、ベリムマブ)、タクロリムス、シクロスポリン、ステロイド(プレドニゾン相当量≧20mg/日)

免疫調整療法、ワクチン接種時期のいずれにも変更なし

中等度

ミコフェノール

病気が安定していると仮定して、各ワクチン接種後1週間休薬する。

中等度

MTX

(2回接種ワクチン)

疾患が十分にコントロールされている場合、2回のmRNAワクチン接種後にMTXをそれぞれ1週間ずつ休薬する。ワクチン接種時期は変更しない

中等度

MTX

(1回接種ワクチン)

疾患が十分にコントロールされている場合、1回接種のCOVIDワクチン接種後、MTXを2週間保留する

中等度

JAK阻害薬

各ワクチン接種後に1週間休薬、ワクチン接種時期は変更なし

中等度

アバタセプト皮下注

ワクチンの初回接種の1週間前と1週間後にアバタセプト皮下注を休薬;2回目のワクチン接種前後は中断しない

中等度

アバタセプト点滴

1回目のワクチン接種をアバタセプトの点滴から4週間後に行い、その後のアバタセプトの点滴を1週間遅らせる(つまり合計5週間隔にする)。ワクチン投与のタイミングを調整し、2回目のワクチン接種では薬の調整は行わない。

中等度

IVCY

可能であれば、各ワクチン接種の約1週間後にCYCを投与する

中等度

リツキシマブ

患者のCOVID-19リスクが低い、または予防的な健康対策(例:自己隔離など)によって感染リスクを軽減できると仮定して、次回予定されているリツキシマブサイクルの約4週間前に一連のワクチン接種を開始するようにスケジュールを組みます。ワクチン接種後、疾患活動が許せば、最終ワクチン投与から2~4週間後にRTXを延期します。

中等度

アセタミノフェン、NSAIDS

病気が安定していると仮定して、ワクチン接種24時間前から休薬。

ワクチン接種後の症状改善のために使用する場合、制限なし。

中等度

 

(補足)ガイダンス・ステートメントの基礎となる原則、前提条件、考慮事項

AIIRD=自己免疫性・炎症性リウマチ性疾患 / RMD =リウマチ・筋骨格系疾患

・ACRのガイダンス・ステートメントは、リウマチ医療従事者の判断に取って代わるものではなく、また患者の価値観や考え方を覆すものでもありません。この指針は、弱い証拠や間接的な証拠に基づいており、実質的には専門家であるタスクフォースによる推定が必要でした。したがって、すべての記述は、条件付きまたは暫定的なものと考えてください。ACRは、新たな証拠が得られれば、このガイダンス文書を更新することを約束します。ACR guidance statements are not intended to supersede the judgement of rheumatology care providers nor override the values and perspectives of their patients. Guidance was based on weak and/or indirect evidence and required substantial extrapolation by an expert task force. All statements, therefore, should be considered conditional or provisional. The ACR is committed to updating this guidance document as new evidence emerges.

 

・ACRでは、ワクチン関連の効果を最大限に引き出すための重要な知識が不足しています。RMDの患者は、基礎疾患、重症度、治療法、多臓器不全の程度、専門医との関係などに大きな個人差があります。これらの点を考慮して、個々の患者に合った治療を行う必要があります。The rheumatology community lacks important knowledge on how to best maximize vaccine-related benefits. RMD patients exhibit high variability with respect to their underlying health condition, disease severity, treatments, degree of multimorbidity, and relationship with their specialist provider. These considerations must be considered when individualizing care.

 

・RMD 患者における mRNA COVID-19 ワクチンの安全性と有効性に関する直接的な証拠はありません。しかし、RMD患者において、ワクチンの有害性が、期待されるCOVID-19ワクチンの有益性を凌駕すると予想する根拠もありません。There is no direct evidence about mRNA COVID-19 vaccine safety and efficacy in RMD patients. Regardless, there is no reason to expect vaccine harms will trump expected COVID-19 vaccine benefits in RMD patients.

 

・今後のCOVIDの状況は、ワクチンの有効性と安全性、投与量、持続性、社会的行動の緩和、新たなウイルス株の変異など、不確実です。このように非常に不確実で急速に変化する状況にもかかわらず、臨床家は最善の判断で行動しなければなりません。The future COVID landscape is uncertain with respect to vaccine effectiveness and safety, uptake, durability, mitigating societal behavior, and emerging viral strain variants. Clinicians nevertheless must act with their best judgement despite this highly uncertain and rapidly changing landscape.

 

・ワクチン接種を延期してCOVID-19リスクを軽減できないリスクと、最適でない状況で接種した場合にワクチンに対する反応が鈍くなる可能性を比較検討する必要があります。実際問題として、この状況が一過性かどうかの不完全な予想と、科学的根拠が乏しい状況で、この問題を解決しなければなりません。The risk of deferring vaccination and thus failing to mitigate COVID-19 risk should be weighed against a possible blunted response to the vaccine if given under suboptimal circumstances. As a practical matter, this tension must be resolved in the context of imperfect prediction as to whether those circumstances may be transient, and a paucity of scientific evidence.

 

・ワクチンガイダンスを発行し、政策を決定する際には、限られたワクチン供給に関連する個人的および社会的な問題の両方を考慮する必要があります。このような状況下では、混乱を避け、実施状況を改善し、科学的信頼性を維持するため、(こうした提言や政策は)シンプルであることが重要です。Both individual and societal considerations related to a limited vaccine supply should be considered in issuing vaccine guidance and making policy decisions. Given that context, simplicity should be the touchstone: to avoid confusion, improve implementation, and maintain scientific credibility.

 

・将来的には、(もしも必要性や有益性が証明された場合に)追加のワクチンブースターを接種するかもしれませんが、その際は供給量による制約はなくなっていることでしょう。どのような予防接種戦略も最初は合理的な出発点から始まり、実施の詳細な決定は、限られたワクチン資源の配分のために行われます。In the future, the ability to give an additional vaccine booster (if proven necessary or beneficial) will no longer be constrained by limited supplies. Any vaccination strategy is a reasonable starting point, and decisions about implementation details reduce to allocation of scarce vaccine resources.

 

Curtis JR, Johnson SR, Anthony DD, Arasaratnam RJ, Baden LR, Bass AR, et al. American College of Rheumatology Guidance for COVID-19 Vaccination in Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases – Version 1. Arthritis Rheumatol 2021.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/art.41734

 

強直性脊椎炎について

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強直性脊椎炎は20歳台から30歳台の比較的若い世代で発症する難治性の脊椎(背骨)の病気です。朝に強く、運動で改善する腰痛症状で発症し、慢性的に病気が進行して脊椎(背骨)の変形、癒合などが起こります。20年から30年の経過で背骨が曲がらなくなり(強直状態)、背骨の前屈や回旋する動作が難しくなります。かつては痛み止めと運動、くらいしか治療法が存在しませんでしたが、関節リウマチ治療に変革をもたらした生物製剤、特に抗TNFα阻害薬が、この疾患にも良く効くことがわかり、治療の環境は大きく変化しています。国が指定する特定難病疾患に該当します。

 

疫学

2018年に行われた全国疫学調査の結果、患者数は3200人程度と推計されました。欧米では多い疾患ですが、日本では比較的まれな病気と言えます。海外ではHLA-B27という遺伝子が病気に関連すると言われておりますが、日本ではこのHLA-B27を持つ人の割合が極端に低いため、この影響で、発症率も低いことが予想されます。リウマチ疾患は女性に多いイメージがありますが、この病気は3:1の割合で男性に多く、ほとんどが40歳以下で発症します。HLA-B27遺伝子以外の原因についてはよくわかっておりません。

 

診断

 前述の通り、若い世代で発症する、運動で改善する腰痛症状が診断のポイントになります。診断にはニューヨーク診断基準を用います。

 

改訂ニューヨーク診断基準

Ⅰ.臨床症状

1腰背部の疼痛、こわばり(3カ月以上持続、運動により改善し、安静により改善しない)

2腰椎の可動域制限(前後屈および側屈)

3胸郭の拡張制限

 

Ⅱ.仙腸関節のX線所見両側2度以上、または片側3度以上の仙腸関節炎所見

0度:正常

1度:疑い(骨縁の不鮮明化)

2度:軽度(小さな限局性の骨のびらん、硬化。関節裂隙は正常)

3度:明らかな変化(骨びらん、硬化の進展と関節裂隙の拡大、狭小化または部分的な強直)

4度:関節裂隙全体の強直

 

Ⅲ.診断基準

1確実:臨床症状の1、2、3のうち1項目以上 + X線所見

2疑い: a)臨床症状3項目 b)臨床症状なし+X 線所見(仙腸関節)

 

この診断基準はX線基準が含まれており、発症から間もない、早期症例の診断にはあまり有用ではない、という問題点があります。強直性脊椎炎の発症から診断まで平均9年程度という統計も報告されており、診断まで長い期間を要することが課題となっています。

近年は「体軸性脊椎関節炎」という新しい疾患概念が生まれ、この分類では多くの強直性脊椎炎が含まれると同時に、X線基準を満たさない、(おそらく早期の、)これまで強直性脊椎炎と分類されなかった症例も含まれることになりました。この体軸性脊椎関節炎であり、強直性脊椎炎ではない症例を「X線基準をみたさない体軸性脊椎関節炎」と分類し、より早期に診断し、早期に治療介入しよう、という動きがあります。関節リウマチでは生物製剤の登場によって、分類基準が早期疾患に対応するように変化しました。強直性脊椎炎においてもこのような動きが起こってきたと言えます。(ただし、国の指定難病の申請にはこの脊椎関節炎の分類は用いることができず、上述のニューヨーク基準を用いますので、注意が必要です。)

 

診断において近年は仙腸関節MRI検査(造影剤使用)の有用性が増しています。レントゲンで炎症の存在がはっきりとしない症例でもMRI検査では鋭敏に炎症の存在をとらえることが可能です。私もMRI検査によって診断することができた、脊椎関節炎の症例を経験したことがあります。若い世代の難治性腰痛を見たらこの病気を疑いますが、X線でわからない場合はMRI検査が有用なことがあります。上述の通り、この病気も早期発見、早期治療の時代になりつつありますので、閉所恐怖症や、体内金属の有無、腎障害、喘息症状の有無などを確認したうえでMRIを勧めさせていただきたいと思います。

 

臨床評価の指標

強直性脊椎炎は客観的に病気の状態を把握するのが他疾患に比べて難しく、治療の強さを決めることが難しいこともよく経験されます。なんとなく治療するのではなく、目標をもって治療することが重要であり、疾患の活動性や機能障害を定量化するための指標が各種開発されています。活動性・疼痛の評価として、患者のVisual Analogue Scale (VAS)によるBASDAI(Bath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index)、患者VASに採血項目のCRP(またはESR)を組み合わせたASDAS (Ankylosing Spondylitis Disease Activity Score)などがよく使われています。ADLなど機能評価項目として患者VASをによるBASFI(Bath Ankylosing Spondylitis Functional Index)があります。新しい総合的健康指標として、The Assessment of SpondyloArthritis international Society (ASAS)によるHealth Index (ASAS HI)が公開されており、これらの指標をくみあわせて、患者様の現在の状態を把握することが重要です。

 

治療

関節リウマチと同様、根治を目指した治療法はまだ存在しません。しかし、生物製剤の登場によって治療薬と呼べるものがようやく出てきました。これまではいわゆる痛み止め(NSAIDS)が主体であり、適度な運動療法を組み合わせて経過をみていました。NSAIDSだけでかなり病状が落ち着く人もいます。関節リウマチに用いるサラゾスルファピリジンやメトトレキサートの有効性は証明されていませんが、末梢性関節症状には有効な患者が一部存在します。疼痛が強い人、生活の質が低下している人、眼の炎症性疾患を合併している人、慢性的な持続性炎症状態がある人には生物製剤の使用をお勧めできます。生物製剤は感染症のリスクを上昇させますので、投与が難しいケースもあります。しっかりとスクリーニング検査を行った後で治療を行うことが重要です。強直性脊椎炎に使用可能な生物製剤は、関節リウマチやクローン病などでよく用いられているTNFα阻害薬、乾癬などでよく使用されているIL-17阻害薬などがあり、患者様の状態にあわせて適切な薬剤を選択、使用します。