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子宮頸がんHPVワクチンについて

はじめに

 2022年4月から子宮頸がん(ヒトパピローマウイルス;HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開されることになりました。また、厚生労働省は積極的勧奨の中断で接種機会を逃した平成9~17年度(1997~2005年度)生まれの女性が来年4月から無料で接種を受けられるようになります。HPVワクチンを接種してきた医療関係者の一人として、今回の決定はとても有意義なものと思われます。世界の先進国の中で日本のHPVワクチンの接種率は最低の水準です。若い女性の死因の一つであり、かつ、ワクチンで予防できるがんを少しでも減らすことが急務です。

 小学6年生から高校1年生の女子を対象としたHPVワクチンは2013年に積極的勧奨になったものの、接種後に全身痛を訴える人が相次いだ結果、積極的接種から外された経緯があります。その後、接種後のデータの蓄積や統計学的、科学的検討を重ね、有益性と安全性のバランスを考慮したのちに、今回の積極的勧奨再開に至りました。副反応がゼロのワクチンは残念ながら存在しません。しかし、あらかじめ情報を得ていることで対処が容易になり、症状を抑えることはできるかもしれません。得られるメリット(=がん予防)とデメリット(=副作用)とのバランスを考えて、最終的に接種を受けるかどうか決めていただければと思います。

 HPVワクチンについて、厚労省などの情報をもとにまとめました。ご自身のお子様に受けさせるかどうか、悩んでいらっしゃる方の参考にしていただければ幸いです。

目的

日本では子宮頸がんに年間1.1万人が罹患し、2800人の方が残念ながら毎年命を落としています。20歳台から40歳台の発症が多く、若い女性の癌死の代表的な原因疾患となっています。子宮頸がんは早期に発見されれば決して予後の悪いがんではありません。ただし、手術や放射線治療に伴って妊娠ができなくなる方も年間約1200人発生しています。子宮頸がんワクチンはほぼ100%の確率でHPVに感染しており、このHPVの持続感染によって子宮頸部異形成が発生し、この異形成が癌に進行することが明らかになっています。HPVワクチンの目的はこのHPV感染症を予防することで、将来の子宮頸がんの発生を予防することです。

効果

 これまで、公費接種のワクチンは2価HPVワクチン(サーバリックス®)と4価HPVワクチン(ガーダシル®)でしたが、2023年4月から9価HPVワクチン(シルガード9®)の公費接種が可能となりました。海外の臨床治験ではサーバリックス®接種によって、自然感染で獲得する数倍量の抗体を少なくとも9.4年維持することがわかっています。この抗体によってHPV感染を予防し、最終的に子宮頚がんの発症が抑制されることが期待されます。

 海外の報告ではHPVワクチンによってHPV感染症が77.9%減少し、子宮頸部異形成が51%減少しました。
 厚労省の推計ではHPVワクチンによって10万人あたり859から595人の子宮頸がんを回避し、10万人あたり209から144人の死亡を回避できる、としています。15歳の女性が1学年に60万人程度いますので、各学年、4000人程度の子宮頚がん発生を回避し、1000人程度の死亡が減らせる、という推計になります。もしもこの推計通りであれば、かなり強いインパクトがあることが想像できます。「予防できるがん」は実はそれほど多くありません。他には肝臓がんの肝炎ウイルスワクチンや胃がんのピロリ菌などが代表的ですが、予防できるものはぜひ予防したい、と考えるのはごく自然な考え方だと思います。副反応ばかり注目されるワクチンですが、効果についてもきちんと理解することが重要です。

対象

 小学6年生から高校1年生の女子は公費(無料)で接種を受けることができます。また、平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性もキャッチアップ接種として無料で接種を受けることが可能です(2023年4月現在)。

 ガーダシル®、シルガード9®は公費適応年齢でなくても、9歳以上のすべての女性は自費で接種可能です。ガーダシル®は男性も自費で接種を受けることができます。

予約・接種方法・期間

 接種を希望される方はまず当院へお電話し、1回目接種の予約をしてください。接種後30分、安静待機になりますので時間に余裕がある日程にしてください。また接種から24時間の運動は禁止ですので、部活動などの予定も確認してください。

 当日来院後、検温し、問診表を記載・提出していただきます。問診表には保護者のサインが必要ですのでご注意ください。中学生以上であれば必ずしも付き添いは必要ではありませんが、緊急連絡先の記載を忘れないようにお願いします。

 医師の問診、診察後に問題が無ければ接種となります。

 0.5mLの薬液を肩の筋肉内に注射します。(新型コロナワクチン接種は筋肉内注射でしたのでそれと同じ方法です。)

 投与後30分間、クリニック内で安静にして待機していただき、急性の副反応がないことを確認した後、帰宅できます。当日の入浴は可能ですが、接種部位を強くこすらないようにお願いします。接種24時間の激しい運動は避けてください。

投与回数・間隔について

 1回目の接種日を起点として、(ガーダシル®、シルガード9®の場合、)2か月後、6か月後にそれぞれ2回目、3回目の接種を行います。

 特に事由がなければ、0・2・6か月の3回投与が通常の投与スケジュールとなりますが、短縮する必要がある場合、2回目は1か月後、3回目は4か月後(0・1・4か月)の接種も認められています。

 逆に予定が入って数か月延期になる場合もあるかもしれませんが、接種は可能です。海外からの報告ですが、1年あけて接種した場合も抗体産生に大きな問題はなかったようです。日程については医師にご相談をいただければと思います。

 同じワクチンを3回接種することで十分な予防効果が期待できます。特別な理由がない限り、3回接種を完了しましょう。

 2023年4月から初回接種を15歳未満で行った場合、2回接種が認めらることになりました。この場合、2回目は6か月後です。

 新型コロナワクチンとの同日接種はできません。前後2週間あけて、接種になります。

費用

 小学6年生から高校1年生は無料です。 キャッチアップ接種(平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性)も無料です。

 自費接種の場合、1回あたりガーダシル®は17,000円、シルガード9は®26,000円です(2021年12月現在)。

 

副反応について

接種直後の副反応

・迷走神経反射:注射の痛みや恐怖心、興奮、緊張などの刺激によって、心拍数や血圧が下がり、気を失う(失神)ことがあります。注射が苦手な人や、恐怖心がある人は、事前に医師・看護師に伝えてください。通常は、横になって安静にするだけですぐに回復します。

・注射部位反応:ワクチン接種した部分が赤くなったり、腫れたりすることがあります。これは、ワクチンによって免疫がつくられるときの身体の反応によるもので、数日で消えることがほとんどです。注射の痛みはそれぞれ感じ方が異なるため、痛みを強く感じる場合も、それほど心配する必要はありません。

頻度の高い副反応

 ガーダシル®の添付文書(2021年8月改訂 第2版)から副反応について一部抜粋します。

10%以上

注射部位の疼痛(67.8%)、紅斑、腫脹

1%以上

注射部位の掻痒感、発熱、頭痛

0.1%から1%未満

浮動性めまい、感覚鈍麻、慶民、回転性めまい、下痢、腹痛、悪心、四肢痛、筋骨格硬直、四肢不快感、注射部位の硬結・出血・不快感・変色・知覚低下・熱感、倦怠感、白血球増加など

上記の通りです。注射部位の疼痛が最も多くなっています。

 

頻度の低い副反応

 頻度は低いものの、重篤な副反応の報告もあります。アナフィラキシー、ギランバレー症候群、急性散在性脳脊髄炎などです。これらが起こった場合は適切な医療機関への搬送を含め、迅速に対応をさせていただきます。

 接種後に広い範囲に広がる痛みや、手足の動かしにくさ、不随意運動等を中心とする「多様な症状」が起きたことが報告されています。これまで様々な調査が行われて「機能性身体症状」であることが推定されています。現時点でワクチン接種とこのような「多様な症状」との因果関係を立証することは非常に困難です。もしも接種後に多様な症状が出現し、これらが改善しない場合には協力医療機関への紹介など、責任をもって行わせていただきます。

 HPVワクチンは、国内で承認された定期接種のワクチンです。健康被害が生じた場合、「医薬品副作用被害救済制度」の対象となります。詳しくは下記のリンクをご覧ください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_kenkouhigaikyuusai.html

 

接種後の注意点

 HPVワクチン接種をしても子宮頚がんを完全に予防できるわけではありません。子宮頸がん検診は忘れずに受けましょう。20歳になったら2年に1回、定期的に検査を受けることが推奨されています。