ロコモティブシンドロームと骨粗鬆症
「ロコモティブシンドローム」という言葉をご存じでしょうか?運動器障害を包括的にとらえた概念であり、2007年に日本整形外科学会で提唱されました。「ロコモ」と略すこともあります。テレビなどで盛んに取り上げられていた時期もありましたし、現在も耳にすることがあるかもしれません。「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義されております。移動機能とは立ち座り、歩行、階段昇降など、身体の移動に関する機能のことです。運動器の障害は主に加齢に伴う機能低下と運動器疾患を指しますので、「ロコモ」は多く場合、高齢者の問題になります。日本は高齢化社会を迎えており、今後、高齢者はますます増えていくことから、「ロコモ」の問題を抱える人も増加していくことが予想されています。
中高年に多い運動器疾患は「変形性関節症」「脊椎症(脊柱管狭窄症)」「骨粗鬆症とそれに伴う脆弱性骨折」です。
2013年の要介護・要支援患者の原因疾患の内訳は脳血管疾患21.5%、認知症15.3%、高齢に伴う衰弱13.7%、転倒・骨折11.8%、関節疾患10.9%であり、最後の2つを「運動器疾患」とすれば、原因の1位となります。転倒・骨折の頻度を減らすことができれば、要介護・要支援となる高齢者を減らすことが可能です。「ロコモ」が増える要因として「骨粗鬆症」とそれに伴う「骨折」は重要です。転倒して骨折すれば長期の入院、リハビリが必要となり、元の状態に戻るまでに長期間を要しますし、リハビリができなければ寝たきりとなります。骨粗鬆症の対策・治療をしっかり行うことでロコモを減らせる可能性があります。また、リハビリや筋力向上のトレーニングなどのロコモを減らす取り組みが結果的に骨粗鬆症を減らす可能性もあり、骨粗鬆症とロコモは原因と結果が相互に結びついていると考えられます。いずれにしましても、骨粗鬆症を放置して骨折にいたることはご本人にとっても社会にとってもマイナスであり、しっかりとした対策考えていくことが重要と考えられます。
脆弱性骨折の臨床的危険因子(骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインより)
骨粗鬆症を起こしやすい危険因子がいくつか指摘されています。上述の通り、「閉経後の女性」は骨粗鬆症に注意しなければなりませんが、それ以外にも、「やせ型」「脆弱性骨折の既往あり」「両親が大腿骨近位部骨折歴あり」「タバコ」「ステロイド内服治療」「関節リウマチ」「アルコール多飲」などに当てはまる場合には注意が必要です。
他にも、「糖尿病」「長期未治療のバセドウ病」「早期閉経」「慢性肝疾患」「栄養失調や吸収不良」などが続発性骨粗鬆の原因とされています。ここに挙げたリスク因子を一つあるいは複数お持ちの方は骨粗鬆症検査を受けられることをお勧めいたします。
Dual-energy X-ray Absorptiometry(DXA)検査について
骨粗鬆症の診断にはDual-energy X-ray Absorptiometry(DXA)を用いて、腰椎と大腿骨の骨密度測定を行う必要があります。65歳以上の女性、上述の危険因子をもつ閉経後から65歳未満の女性については、骨密度測定が推奨されます。また、男性の場合、70歳以上や、危険因子を有する50歳から70歳未満について骨密度測定は有用とされています。上述の疾患、関節リウマチ、ステロイド治療歴がある成人はすべて骨密度測定の対象となります。
骨密度測定によって骨密度が低いと判定された場合、新規に骨折を発生する確率が高くなることがこれまでの様々な検討で明らかとされています。(低骨密度と新規骨折は高いレベルで相関します。)骨密度がYAMで10-12%低下すると、骨折リスクは1.5から2.6倍に上昇する、という研究もあります。
DXA検査は腰椎と大腿骨の2か所の骨密度検査を測定します。妊娠中の方には施行できません。おへそから太ももにかけての検査になりますので、ズボンのファスナーや金属のボタンなどがあると検査に支障があります。必要に応じて、検査用のショートパンツにはきかえていただきます。検査台にあおむけで横になっていただき、2か所を測定します。測定時間はそれぞれ30秒程度で、痛みはありません。準備の時間を加えてもだいたい10分程度で検査は完了します。
DXAは骨粗鬆症の診断や治療効果判定に有用です。当院では最新のDXAを備えてガイドラインで推奨されている腰椎と大腿骨の検査を行うことができます。骨粗鬆症が心配の方、治療に興味があるかた、上述のリスク因子をお持ちのかたは、病院レベルの骨粗鬆症の検査をいつでも行うことが可能ですので、お気軽にご相談ください。ご予約は不要です。
骨粗鬆症の予防(骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインより)
中高年向けに骨粗鬆症の予防として推奨されているものを列挙します。このうち、エビデンスレベル、推奨グレードともに一番高いのは「運動(日常的な歩行運動)」でした。
- 運動(推奨グレードB エビデンスレベルI): 歩行を中心とした日常的な軽い運動が骨密度の上昇に有効です。ジョギングやダンスなどの強い運動負荷は大腿骨の骨密度上昇に有効のデータもありますが、きちんとした管理下という条件付きであり、いきなり強い運動をするのではなく、まずは日常的な歩行を生活に取り入れましょう。
- 体重管理(やせすぎない):やせると骨折リスクが上昇。適正体重の維持、やせの防止を。
- 禁煙・節酒:喫煙は骨折リスクを上昇させます。飲酒はエタノール量で24g/日未満が推奨されています(ビール500ml1本で20gです。ワイン200mlくらい)。
- 栄養: カルシウムやビタミンDを多く含む食品を摂取することは重要と考えられますが、骨密度を上昇させるという証拠(エビデンス)は残念ながら少ないです。ビタミンDは1日15分程度の日照暴露があるとさらに良好とされます。
近年よく指摘されていますが、女性の過度のダイエット志向、過剰な紫外線対策、運動不足などは将来の骨の健康を考えますとあまりいい状態とは言えません。これらに当てはまりそうな方は骨の健康についても意識していただき、早めに骨密度検査を受けることも検討されるといいと思います。